イギリスは、EU離脱協定案がまとまらず欧州議会選挙に参加せざるをえなくなったのであるが、メイ首相は、万策尽きて保守党党首を6月7日に辞任することを表明した。イギリスでは、新党の「EU離脱党(BREXIT党)」が勢いを増し、31.6%で圧勝した。2位は自民党で20.3%、3位は労働党で14.1%、4位が緑の党で12.1%、そして政権与党の保守党は僅かに9.1%で5位に甘んじた。

 伝統的二大政党である保守党と労働党は歴史的な大惨敗。EU離脱を巡る両政党の迷走ぶりに大きな批判が集まった格好だ。EU離脱に関しては、残留組と離脱組が拮抗しており、国論を二分する状況は変わっていない。メイ首相の後継者には、今のところボリス・ジョンソン前外相のような「合意なき離脱」も辞さない離脱強硬派が選ばれる可能性が強いが、誰が後継首相になるにせよ、国論をまとめるのは容易ではなかろう。

 EUの問題児であるギリシャでも、政権与党に逆風が吹いている。チプラス首相率いる与党の急進左翼進歩連合(SYRIZA)は、24%の得票で、野党第一党の新民主主義党(ND、中道右派)の33%に及ばなかった。そのため、チプラス首相は議会を早期に解散して6月下旬に総選挙を行う意向を示している。

 以上のように、今回の欧州議会選挙は各国の政治に大きな影を投げかけことになった。

EUが掲げた理想の灯火を消さないために

 欧州議会の今後であるが、前述のように、これまでのように中道の二派で牛耳ることが不可能になった。リベラルや緑の党の協力を得ることによって、過半数を確保できるにしても、それは個々の政策ごとの多数派ということになり、安定的な議会運営は難しくなるであろう。

 そして、次に控えているのが、10月に任期満了となるユンケル欧州委員会委員長、11月に任期が満了するトゥスク欧州大統領(欧州理事会議長)の後任人事である。

 欧州委員長選びでは、ドイツとフランスが対立している。従来は、第一会派の推す筆頭候補が選出されることになっており、この慣例を踏襲すると、EPPでドイツ出身のウエーバー議員となる。この案には、ドイツのメルケル首相が賛成している。これに対して、フランスのマクロン大統領は選出方法を見直すべきだと主張し、経験の浅いウェーバー議員よりも、フランスのバルニエ元外相を推薦している。バルニエ氏は、イギリスのEU離脱交渉のEU側主席交渉官でもあり、経験は豊富である。その他に、オランダのティメルマンス氏、デンマークのベステアー女史、ブルガリアのゲオルギエバ女史の名前も上がっている。

仏独首脳、次期欧州委員長の人選めぐり対立

次期欧州委員長の候補となっているマルグレーテ・ベステアー氏(左)とマンフレート・ウェーバー氏(2019年5月15日作成)。(c)Aris Oikonomou and INA FASSBENDER / AFP〔AFPBB News

 この人事は、欧州議会の多数派工作とも関連しており、マクロン大統領のALDEは連立参加のカードを委員長人事に使うと見られている。EUはドイツとフランスの協力を主軸として運営されており、委員長人事は今後のEUの行方にも大きな影響を与えそうである。

仏独首脳、次期欧州委員長の人選めぐり対立

ベルギーの首都ブリュッセルにある欧州委員会本部での会談に出席したアンゲラ・メルケル独首相(手前左)、エマニュエル・マクロン仏大統領(奥)、ポルトガルのアントニオ・コスタ首相(手前右、2019年5月28日撮影)。(c)YVES HERMAN / POOL / AFP 〔AFPBB News

 さらに、次期欧州中央銀行(ECB)総裁人事も重要である。ワイトマン独連銀総裁、ビルロワドガロー仏中央銀行総裁、レーン・フィンランド中央銀行総裁、クーレECB理事(フランス人)などの名前があがっているが、欧州委員長人事とのバランスが考慮され、必ずしも政策の特色が主な争点になるわけではない。

 6月には、委員長、大統領、ECB総裁の人事が固まるだろうが、この人事にも、今回の欧州議会選挙の結果が微妙に影響する。

 EUの歴史を振り返ると、「拡大(widening)」と「深化(deepening)」の両方向で発展を遂げてきた。しかし、拡大は、加盟国間の格差を浮き彫りにさせることになり、また深化はEUの方針と各加盟国の政策の齟齬を目立たせることになった。BREXITはその帰結とも言えるのである。

 国境のない世界、戦争のない世界を作ろうという人類の大きな希望がかかるEUである。理想の灯火を消さないように、欧州のリーダーたちが政治力を発揮すべきときが来ている。