2018年4月6日、朴槿恵前大統領の一審判決を伝える韓国メディア(写真:AP/アフロ)

日韓関係に改善の兆しがなかなか見えてこない。安倍-朴槿恵両首脳によって成し遂げられた「最終的かつ不可逆的な解決を確認した」慰安婦合意も、文在寅政権の誕生で、事実上ご破算になってしまった。法的に解決済みであるはずの元徴用工への賠償も、韓国の司法当局が日本企業にその義務を認める判決を下すなど、日本には受け入れがたい決断が次々と出てくる。なぜ韓国はそれほど反日的な態度を強めるようになったのか。田原総一朗氏が、元在大韓民国特命全権大使である武藤正敏氏に聞いた。(構成:阿部 崇、撮影[田原氏、武藤氏]:NOJYO<高木俊幸写真事務所>​)

「国母」の気持ちで国民に接してきた朴槿恵前大統領

田原 僕が韓国のことで不思議に思っているのは、前大統領の朴槿恵さんのことなんです。彼女が大統領の時、韓国では連日、大統領の辞任を求めて100万人のデモが繰り返されましたよね。僕から見ると、朴槿恵さんはそんな悪いことをしていなかったように思うんだけど、なぜ韓国では、あんなに多くの国民が連日デモに繰り出すことになったんですか。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)などに出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。

武藤 いろんな要素があると思いますが、問題が大きくなった背景の一つには彼女の意識が国民とかなり乖離してしまったことがあったのではないでしょうか。

 朴槿恵さんは22歳の時に、母・陸英修が暗殺されてからは、父である朴正煕大統領のファーストレディの役割を果たしていたわけですが、その父も5年後に暗殺されてしまう。その時の彼女の第一声は「38度線は大丈夫ですか」だったそうです。暗殺という惨劇に肉親が襲われ、とんでもない厄災が自分の身に降りかかるかもしれないときに、真っ先に国の安全保障を心配した。そういう人なんですね。

 つまり朴槿恵さんは常に「国母」の気持ちで国民に接してきたのだと思います。「私が頑張らなくちゃ」という気持ちと、「自分がこの国のことを一番よく考えているんだ」という強い自負を持っていた。それがいつしか「だから私の言うことを聞きなさい」という考えになり、他人の言うことに耳を貸さなくなってしまった。もともと、人付き合いがあまり上手ではないという面も持っていらっしゃったと思います。

武藤正敏:外交経済評論家。元在大韓民国特命全権大使。横浜国立大学卒業後、外務省入省。アジア局北東アジア課長、在オーストラリア日本大使館公使、在ホノルル総領事、在クウェート特命全権大使などを歴任ののち、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』、『韓国の大誤算』、『韓国人に生まれなくてよかった』(以上、悟空出版)、『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!』(李相哲氏との共著、WAC BUNKO)がある。

田原 ソウル在住の経験豊富な日本人記者は「朴槿恵さんは人と話をするのが苦手。おそらく対人恐怖症だろう」と言っていました。ただ、そんな朴槿恵さんにも、唯一、気兼ねなく話ができる女性がいた。

武藤 ええ、崔順実(チェ・スンシル)です。

田原 非常に仲良くなった彼女のために財団を作ってあげたり、彼女の娘をいい大学に入れてやったりして、それが後に追及されることになった。

 ただね、そんなこと日本の政治家だってやっていることなんじゃないですか? 韓国で朴槿恵さんがあんなに憎まれた理由がよく分からない。