(武藤正敏・元在韓国特命全権大使)
4月11日、ワシントンでは米韓首脳会談、北朝鮮では最高人民会議が相次いで開催された。
トランプ大統領、金正恩朝鮮労働党委員長はそれぞれ、第3回米朝首脳会談の可能性に言及はしたものの、どちらも「相手の出方次第」との姿勢を崩さなかった。その隙間で、韓国の文在寅大統領は、米朝双方から「仲介者失格」の烙印を押されながらも、仲介役として一層の役割を果たそうと必死に動き回っている。3カ国が各様の動きを示す中で、今後北朝鮮の核問題はどのように進展していくのか、展望してみたい。
トランプ大統領は北朝鮮との交渉を急がない
文在寅大統領は、北朝鮮が完全な非核化に応じるまで、南北経済協力の推進を含めた制裁の緩和の実現と、米国が消極的姿勢を示している米朝首脳会談開催についてトランプ大統領を説得するため訪米した。しかし、これに対する米国の反応はほぼ「ゼロ回答」と評価せざるを得ないものであった。
文大統領は、ポンぺオ国務長官やボルトン大統領補佐官が同席しない2人だけの首脳会談で、トランプ大統領を説得しようと考えていたものと思われるが、肝心の「差しの会談」には両首脳の夫人が同席し、深みのある実質的な会談というより、儀礼的な面会という雰囲気を漂わせた。しかも、その29分の会談も、冒頭発言とトランプ大統領の記者団との問答に27分も費やし、2人だけの会談は実質的にはわずか「2分」であったという。
トランプ大統領は、2人だけの首脳会談の冒頭、取材中の記者団との応答の中で、3回目の首脳会談について「あるかも知れない。急いで開くのではない。順を追って進める」、「もし急げば正しい合意が得られなくなるからだ」と述べ、米朝に韓国を交えた3首脳の会談についても「あり得るが、金正恩氏次第だ」との見解を表明した。
さらに、北朝鮮の完全な非核化まで制裁を維持する立場を表明し、韓国側が期待する南北協力事業については「今は適切ではない」と述べ、容認しない考えを示した。文大統領がこれから会談で取り上げ、トランプ大統領を説得しようとしていた事柄を、あえて会談前の記者団との問答で否定したのは、文大統領の訪米の成果を期待しないよう、韓国側を戒めたかったからだ。
金正恩氏 米国の方向転換を要求
一方、最高人民会議2日目に演説した金正恩氏は、米国が「正しい姿勢でわれわれと共有できる方法論」を見つけることを条件に、「第3回首脳会談を行う用意がある」との立場を明らかにした。金正恩氏のいう「正しい姿勢」とは、昨年6月のシンガポールでの米朝首脳会談に立ち戻り、完全な非核化が実現するまで経済制裁を続ける構えの米国に方向転換を求めたものとみられる。
演説では、さらに「米国が、敵視政策の撤回には依然として背を向けており、われわれを圧迫すれば屈服させられると誤断している」、経済制裁に執着するのは「われわれに対する耐え難い挑戦なので傍観できず、粉砕しなければならない」と非難している。それでもトランプ大統領との関係については「立派な関係を維持している」と述べ、「今年末までは米国の勇断を待つ」としている。