(舛添 要一:国際政治学者)
アメリカがイランとの核合意から離脱してちょうど1年目にあたる5月8日、イランのロウハニ大統領は、核合意の履行の一部を停止することを宣言した。具体的には、低濃縮ウランと重水炉で使用する重水の保有量制限を遵守しないことである。前者は300キロ、後者は130トンに制限されている。
また、核合意締結国の英仏独露中の5カ国に対しては、60日以内にイランの原油や金融を支援しないかぎり、核兵器の原料となる高濃縮ウランの生産を再開すると警告した。
軍事衝突に発展しかねない対抗策の応酬
これより2日前の6日、米国のボルトン補佐官は、空母エイブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群とB52爆撃機を中東に派遣すると発表した。その理由は、「イランがミサイルを艦船に移動させている」との情報を得たからだとしている。
もし、イランが中東地域に展開している米軍に危害を加えるようなことがあれば、アメリカは反撃する決意であることを示すのが目的という。また、迎撃ミサイル、パトリオット部隊の中東への派遣も考えていることを明らかにした。
イラクには、米兵約5000人がISに対抗するために駐留しているが、そのイラクをポンペオ国務長官が7日に突然訪問した。アブドルマハディ首相やサレハ大統領と会談し、現地に展開するアメリカ軍の安全確保への協力を求めている。因みに、イランもまたイラクに兵士を派遣している。
このような軍事的プレゼンスの強化とともに、トランプ政権は、6日までに、イランに対して原発などの新設工事を制限する制裁を発動した。具体的な対象は、南部のブシェール原子力発電所の新設工事や濃縮ウランの外国への搬出などである。これに対して、「原子力の平和利用は核合意で認められている」とイランは反発している。
さらにトランプ大統領は、8日のロウハニ大統領の宣言に対抗して、鉄鋼やアルミニウムなどイラン産の金属製品の輸入を全面禁止する新らたな経済制裁を発表した。イランにとって金属の輸出は原油輸出に次ぐ大きな収入源で、深刻な打撃になる。
このように双方が対抗措置をエスカレートさせれば、「軍事衝突」という最悪の事態が避けられなくなってしまう。