武藤 宗教家の娘である崔順実は、胡散臭い雰囲気がありました。そして致命的だったのは、崔順実の娘を不正に大学に入学させたことでしょう。名門の梨花女子大学です。韓国では、どの大学を卒業するかで就職先も決まってしまう。つまり、将来が決まっちゃいますから。
田原 そうか。韓国は超学歴社会で、いい会社に就職するなら特定の名門大学を出てなきゃダメなんですよね。
武藤 そうです。だからみんな一生懸命勉強するわけですが、その受験をすっ飛ばして簡単に名門大学に入学しちゃうのは心情的になかなか許せないのでしょうね。
また朴槿恵さんは、財閥系の企業などから資金を出させて、崔順実と娘が関わるスポーツ財団を作ってやったこともありました。この財団から朴槿恵さんにお金が流れたわけではありませんが、崔順実の懐にはずいぶん入っていた。
他にもいろいろありますが、まあ韓国の国民が怒る理由もそれなりにあったと思います。ただ私たちが注意しなくてはならないのは、ローソクデモを主導したのは左翼系の労働組合だったということです。民主労組や全教組という非常に過激な組織です。
韓国内でいまなお一定の支持を集める新左翼
田原 彼らは朴槿恵さんのどこが気に入らないんですか。とにかく保守はダメ、ということなんですか?
武藤 そうです。保守はダメなんです。
日本では、学生を中心とした新左翼運動が活発だった時期がありましたが、どんどん過激化し、1972年には連合赤軍があさま山荘事件を起こします。その頃から学生運動も国民の支持を失い、どんどん衰退していきました。
韓国は違いました。というのも大統領に朴正煕、全斗煥、盧泰愚といった軍人出身の人たちが就いてきた。そこに対抗する民主化勢力として左翼運動が、一定の国民的支持を集めてきたのです。
田原 今も国民に支持されているんですか。
武藤 まだ少しあります。
田原 彼らはなぜ軍人出身者に反発してきたんですか。
武藤 例えば朴正煕さんは、結構弾圧もしています。それから彼は、日韓国交正常化を強引に進めた人物と捉えられています。
田原 1965年に佐藤栄作さんとの間でやったものですね。
武藤 ええ。実態を言えば、アメリカのケネディ大統領から尻を叩かれてようやく本格化した国交正常化交渉でした。すでにベトナム戦争の泥沼に突っ込んでいたアメリカは、もう韓国を面倒見る力がなくなってきたので、「早く日本と話を付けて、日本に協力してもらえ」ということで、遅々として進展しなった正常化交渉が加速化したのです。
この時の交渉では、徴用工の問題について、日本から「個人補償しましょうか」と言っています。ところが、韓国政府は「ダメだ、その資金は元徴用工個人にではなく韓国政府によこせ」と要求しました。そのお金を使って国の経済発展、インフラ開発をしようとしたのです。そのときに手本にしたのが、日本の明治維新ですよ。つまり富国強兵、殖産興業ですよ。
北朝鮮と対峙するためにも、まず国力、経済力を付けようと考えた。その時の絶好の手本が日本の明治維新です。例えば、浦項総合製鉄(現ポスコ)なんかも日本の八幡製鉄の焼き直しと言ってもいい。
それからこの時にインフラ開発にも熱心に取り組みました。ダムを作り、ソウルに地下鉄を作り、そしてソウル—釜山間の高速道路を作った。日本が歩んできた道を、日本からもらったカネでなぞったのです。