趣味を職業にするのはやめたほうがいい

 半世紀におよぶ「鉄道人生」で、私が得たもっとも大きな教訓は、仕事を「面白いから」という理由だけで選んではいけないということでした。

 幼いころからの希望がかなって国鉄に就職できたときから、仕事に専念するために「鉄道が好きだ」という思いは、いっさい忘れるつもりでした。実際に入社してみると、外側から無邪気に見ていた鉄道と、内側から職業として携わる鉄道は、やはりまったく異なるものでした。

 入社した時には、将来、運賃値上げやダイヤ改正などで、関係各所に頭を下げて回ることが主な仕事になるとは、夢にも思っていなかったのです。

 鉄道にかぎらず、「好きなこと」「面白いと思うこと」を仕事にしたいという方は、その後にやってくるかもしれない「挫折」や「落胆」が大きいことを、覚悟しておく必要があります。自分がただ楽しみたいという理由で、就職先を選ばないほうがいい。はっきり申し上げて、それは趣味のままにしておき、職業にするのはやめておいたほうがいいとさえ思います。

 鉄道ファンとして外側から鉄道を見る場合、目に入るものの多くは乗客としての目線です。駅に行き、乗車し、輸送というサービスを受ける。その一連の行動において目につくことに関心をもちます。すなわち、駅の設備、列車の運行方法、車両の種類、あるいは駅員や乗務員の勤務の様子や線路設備の保守点検などが、まずは興味の対象になるわけです。

「鉄道人」の多くはシステムのごく一部

 しかし、私のように大学卒の事務系として鉄道会社に入社した者が、前述した仕事に直接携わることはそれほど多くありません。入社した直後に、見習いや研修として体験することはあっても、長い鉄道人生のなかで大きなウエイトを占めることにはならないのです。

 鉄道は、巨大なシステムの組み合わせで成り立っている事業です。そこにはさまざまな「現場」が存在し、そのすべてにプロフェッショナルが配されています。私が入社した頃は、それぞれの現場は独立性が強く、文化も異なれば、各職種のプライドもあって、相互に交流することはあまりありませんでした。