信頼が足りない要因はいくつか考えられます。例えば、

・有益や情報をシェアしたら手柄を横取りされた
・「ありがとう」と言われただけで、評価では全く報われなかった
・自分が苦労して築いたノウハウなのでシェアしたくない
・仕事が忙しいのでシェアする時間がもったいない

 などです。何となく思い当たるようなものもあるのではないでしょうか。

 こうした思いはなかなか払拭できません。それは、組織内にこびりついた過去の記憶があるからです。例えばこんな記憶です。――自分の知識・ノウハウを同僚にシェアしても、その場限りの賞賛だけで、人事評定では全く評価はされなかった。それどころか、「もっとくれくれ君」が現れ、断ると今度はネガティブな噂を流され、結局自分が悪者にされてしまった――シェアにまつわるこんな黒歴史の記憶が、当人、そしてそれを傍観していた組織の中にも染み付いてしまっているのです。これを拭い去るのは容易ではありません。

 さらに、世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことが分かりました。これは米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスだったのです。

 果たしてあなたは、今、心の底から、会社や職場のメンバーを100%信用しきれていますか? このご時世、自分の人生の命運を会社に100%預けっぱなしという人はごく少数でしょうが、それも含め、会社への信頼感の乏しさが職場でシェアの広まらない大きな原因の一つなのです。

 ゼロではないといえ、同僚との間にわずかな信頼感しかないようでは熱中した仕事もできないでしょう。チームビルディングの研修をしても、盛り上がるのは一瞬だけ。明日はいつもの毎日が待っているだけです。そんな、味気ない日常を変えるヒントを紹介しましょう。

テクノロジーが組織の中の信頼感を取り戻す

 シェアについて解説した話題のベストセラー『シェアライフ――新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)で、著者の石山アンジュさんは「シェアにおけるやり取りを行うには『信頼する・信頼される』スキルが欠かせません」と、サービスを提供する側、提供される側の双方に、「信頼」を得るための働きかけが必要であると指摘しています。

 では「信頼」とは何なのでしょうか? 石山さんは、シェア研究の第一人者レイチェル・ボッツマンの著書『Who Can You Trust?』から、「信頼は歴史の中で変化しており、その転換を大きく3つにフェイーズを分類できる」という彼の分析を引用しています。

 それによれば信頼とは、「ローカルな信頼」から「制度への信頼」、そして現代は「分散された信頼」に変遷してきたというのです。

「ローカルな信頼」とは、例えばこういうことです。砂漠の中でペットボトルの中身が信用できるかどうかは、相手への信頼があるかどうか。そう、お互いの素性がよくわかり、顔見知り、友達、特定の人の間との信頼関係がローカルな信頼です。日本も戦前までは、このローカルな信頼が中心でした。

「制度への信頼」は、「ペットボトルの水は日本製だから信頼できる」といったように、国、企業、業界団体など、仕組や制度をとした信頼がこれです。戦後の日本はまさにこれで、製造元の企業やJASなど品質規格基準に基づく信頼を中心にしてきました。

 そして3つ目の「分散された信頼」は、われわれの社会に浸透している、テクノロジーを通した信頼です。例えば「食べログ」のように、個人からの評価の集合に私たちは信頼を置き、食事に使うお店を選んだりします。このように、たくさんのレビューの評価をもとにお店を選ぶのと同じように、相手方を直接知らなくとも、テクノロジーを通して得られる情報を担保に、信頼を置くのです。