桑原正義氏(以下敬称略) 少し前に多かったのは、「いまどきの若者はダメだ」という上司がダメ出しをして、それにダメージを受けた若者が辞めたり、会社に来なくなったりするという問題です。上司世代から見ると「打たれ弱い」ように感じ、頭を悩ませているということもよくあります。

 それに対し最近は、会社は若者が辞めないよう、新人たちに手厚いフォローをしたり、「強く叱らない」といった対応をとることが増えてきました。

 結果、若者に対する一方的なダメ出しはなくなってきたと同時に、今度は上司が若者に何も言えなくなる、という問題が起きてしまいました。

 すると、新たな問題も発生します。若者が「育たない」という問題です。それは、職場で必要なコミュニケーションが取れていないということに大きく起因します。

「叱る」ことができない上司に「放置」された若者が、そうした状況に見切りをつけて会社を去るという問題も起きました。結局、こうした問題の連鎖を断ち切るためには、まずは両者の「価値観」の相違を理解する必要があるのです。

訪問100件に何の意味があるんですか?

――若者と上司世代が持つ価値観の相違を、桑原さんはどのように捉えていますか?

桑原 若者と上司世代で、最も違うのは、個人と組織の考え方でしょう。これまでは「個人組織」、つまり「個人は組織に従う」「組織のために個人が働く」という価値観が根底にあったと思います。

 ミレニアル世代の若者は、まず「個人」です。そのため、組織や上が決めたことだったとしても、それが個人にとって納得のいくものでなければ、当然に従うということに強い抵抗感を覚えるのです。

 たとえば、若いころ、電話営業や訪問件数を増やす営業をひたすらやって経験を積み、成績を上げてきたという成功体験を持つ上司が、「まずは100件訪問しろ」といった指示を出すとします。

 すると、「100件行くことに何の意味があるんですか?」といってやりたがらない若者もいるでしょう。そして、その理由を聞くと「ムダなことはしたくない」という答えが返ってきます。訪問をいくらたくさんしても、それが成果や誰かに役立つことに結びつかなかったら意味がないということでしょう。ゴールに最短で向かいたい、失敗はしたくないという傾向が強いのも彼らの特徴です。

 そして、若者の言い分を聞いてみると、「やみくもに訪問する時間があれば、提案の内容をブラッシュアップしたり、お客様の満足度を上げることに時間を割いた方がいいのではないか」といった、彼らなりの考えがあることが分かります。

 目先の数字を追うよりも、お客様の満足度を上げることのほうが、彼らにとっては重要です。同様に、組織の業績そのものは目的には置けず、社会的な意味や価値を重要視します。これは、仕事における本質を捉えることにつながる考え方とも言えるんですよね。