信じて任せて見守ることで、部下の新しい味を引き出せるかもしれない。

(篠原 信:農業研究者)

 子育てや部下の育成の要諦は、「期待しない」ことかもしれない。期待しないから子どもも部下も意欲を持つようになり、自分で考え、自主的自発的に行動するようになり、能力開発を最大化する。

 なぜか。「期待しない」と、こちらが「驚く」ことができるからだ。

 期待しないから、子どもや部下が自発的に考え、行動したことに「まさか」と驚ける。こちらが驚くと、子どもや部下は「やった! 驚かすことができた!」と意欲にアクセルがかかり、ますます驚かせてやろうとほくそ笑む。自発的に考え、行動し、「できない」を「できる」に変えていくことで、こちらを驚かそうとする。

「期待しない」と言っても、それを口にするようではダメ。「どうせあんたは」とか、「平々凡々の人間になるかもしれないし」とか、相手(あるいは子ども)を「呪う」言葉は御法度。なぜか。それらの言葉は、本音では期待してるクセに、罵って憂さを晴らしたい、という二重の意味で、相手を傷つけるから。

「期待しない」のであれば、呪い、恨みの言葉は出ないはず。部下や子どもにああ動いてほしい、こう動いてほしいと期待するから、恨み言がこぼれてしまう。だが、恨み言を相手にぶつけてしまうと、「ええそうですよ、どうせ私はダメ人間ですよ」と、イジケ精神を呼び覚ますだけ。よいことは何もない。

 自分の心を「期待しない」にマインドセット(心構え)することで、部下や子どもたちの行動に「驚く」ことができるようになる。驚けば、ポジティブな行動を誘発し、強化することができる。皮肉なことだが、「期待しない」ことで、ついついこちらが期待したくなるような行動を、自主的自発的にとらせることが可能になる。

 ついつい、期待してしまうと、期待とは裏腹の行動を誘発する。期待せず、驚くことで、本音では期待したい行動がどんどん引き出される。なんとも皮肉なものだが、人の心はそうやってできているから、仕方ない。