田原 どれくらいヒットしているんですか。

大島 ドキュメンタリー映画というのは、観客動員で1万人を超えるのがけっこう難しいんですけど、この作品は公開12週間で5万人を超えました。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)などに出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。近著に『AIで私の仕事はなくなりますか?』 (講談社+α新書) など。

田原 それはすごい! そういったドキュメンタリー映画って、制作費はどれくらいかかるものなんですか。

大島 ものにもよりますが、安いものだと500万円くらいでしょうか。「ちょっとお金かけちゃったな」という作品だと1200万円くらい。さらにそこに配給宣伝費がかかりますので、最低でも1000万円くらいはかかる計算です。

田原 その1000万円を回収するには何人ぐらい入ればペイするんですか。

大島 ドキュメンタリー作品のお客さんはシニアが多いので、だいたい1人当たりの入場料を1300円として計算するんですが、そのうち劇場が半分持っていきますので、お客さん1人の単価が650円。さらにその2割を配給会社が持っていきますので、残りの520円がわれわれの取り分となります。

田原 じゃあ1000万円を回収するためには、だいたい2万人のお客さんに観てもらう必要があるわけだ。

 でもさっき、ドキュメンタリーは1万人はいればまずまずっておっしゃっていたけど、そうするとほとんどのドキュメンタリー映画は赤字っていうこと?

大島 実はそうなんです。劇場にお客さんが1万人来てくれても、だいたい520万円にしかなりません。ただ、ドキュメンタリー映画って、劇場以外で開かれる「上映会」っていうのもあるんですね。そういうところでかけてもらえれば、また収入になります。

 あとはDVD化したりテレビ放映やネット配信で売り上げを立てる。そうやってなんとかトントンに持っていくというのがドキュメンタリー映画の現実ですね。

田原 映画って作るのも大変だけど、作ってからもどう製作費を回収するかで大変なんですよね。

大島 本当にそうですね。基本的にはドキュメンタリー映画は儲かりません。もう好きだからやっているとしか言えないですね(笑)。

テレビで求められる「一瞬も視聴者の気を逸らさない」編集

田原 大島さんはテレビと映画、両方を手掛けているわけですけど、やっぱり将来的には映画をメインでやっていくつもりなんですか。

大島 ドキュメンタリー映画は続けていきたいですが、自分が育ったのはテレビの世界なので、テレビ番組は作り続けていきたいです。

田原 テレビと映画、作る上で違いってありますか。

大島 一番違うのは、映画は一度スクリーンの前に座ったら、よほどのことがない限り最後まで観てもらえる、という点でしょうね。

田原 入場料を払ってはいるからね。

大島 ええ。その点、テレビは「いつ消されるか、いつチャンネルを変えられるか分からない」という心配が常にある。そこは大きな違いです。その違いによって、ソフトの質が違ってくるなというのは身に染みています。

田原 どう違ってます?

大島 テレビはスイッチを切られたりチャンネルを変えられないために、煽って見せていく必要が出てきますよね。これはもう、観ている人の注意を一瞬でも逸らしちゃいけない、という編集になってきます。同じ素材を扱っていても、映画にするんだったら、その時には意味が分からない映像があっても、後になって分かってもらえればいい、という構成も可能です。

田原 なるほど、そうか。テレビでは、まともな構成よりも、煽って視聴者を惹きつけるような編集が優先されるんだ。

大島 そうですね。だから、作り手としては、そういった制約から離れられるNHKのBS放送の視聴率が1%とか2%でも許されるような番組が、やっていて一番楽しい。逆に視聴率10%以上を求められるような番組をやると、自分の作品じゃなくなってしまう感覚があるんです。