『ドキュメンタリー映画は、配給宣伝費も入れれば制作に1000万円はかかりますが、劇場に1万人のお客さんが来てくれても半分程度しか回収できません』(大島)。「映画は作るのも大変だけど、出来上がってからも大変ですよね」(田原)

「カネはかかるが儲からない」とされるドキュメンタリーの世界で、テレビ番組だけではなく、映画制作にも乗り出している大島新氏。現在公開中の『ぼけますから、よろしくお願いします。』は異例のヒット作となっている。ドキュメンタリーでいかにして食っていくか。前回に引き続き、その秘訣を聞いてみた。(構成:阿部 崇、撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)

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田原総一朗氏(以下、田原) 大島さんはテレビ番組の制作だけじゃなく、ドキュメンタリー映画も撮られていますね。どういう作品を撮ってきたんですか。

大島新氏(以下、大島) これまでに5本のドキュメンタリー映画を作りました。監督をしたのが2本、プロデュースしたのが3本です。

 監督したのは、2007年に唐十郎さんの1年を撮った作品(『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』)、それから2016年の映画監督・園子温さんのドキュメンタリー(『園子温という生きもの』)です。

 プロデューサーとして制作した映画の最新作が『ぼけますから、よろしくお願いします。』という作品です。認知症になった妻を介護する夫の姿を、実の娘が撮ったものなんですが、お陰様で現在公開中のこの作品が、ドキュメンタリー映画としては異例のヒットとなっています。

娘だから撮れた両親の老老介護のリアル

田原 その作品、どういうところがウケているんですか?

大島 新:映像ディレクター、株式会社ネツゲン代表取締役。1995年、早稲田大学を卒業し、フジテレビに入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビ退社、フリーディレクターとして活動した後、2009年に株式会社ネツゲンを設立、代表取締役に。MBS『情熱大陸』、NHK-BS『英雄たちの選択』などテレビ番組を制作する一方、ドキュメンタリー映画の制作にも乗り出す。監督作品に『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞受賞)、『園子温という生きもの』、プロデュース作品に『カレーライスを一から作る』『ラーメンヘッズ』『ぼけますから、よろしくお願いします。』がある。

大島 セルフドキュメントの一種になると思いますが、家族が撮っている作品なので、他人の前ではなかなか見せないような人間の生々しい姿が映像に収められているんですね。

 監督・撮影をしているのはテレビ業界の名物女性ディレクターで、劇場公開映画を作るのは初めてという人なんですが、彼女はなかなか業の深い性格で、泣きながらカメラを回しているわけですけど、どこかで「おいしいシーンが撮れた」と喜んでいる彼女もいるわけです。

 それが作品のある種の凄みを加えているんですね。

田原 作品では、老老介護の壮絶な姿も描かれているんでしょうけど、どういうところが大変なんですか。

大島 老老介護の当事者である老夫婦は広島の呉で生活しているんです。そして、撮影している娘は一人娘で、東京で働いている。そういう状況ですから、娘は娘で、「両親の世話をするために、東京の仕事を辞めて、呉で仕事を見つけなきゃいけないかも」という葛藤も描かれています。

 一方、父親は父親で、東京で仕事面でも周囲から評価されるようになっている娘には、自分の仕事を全うしてほしいという思いもある。そういった、介護に直面した人が抱えることになる、介護そのものの苦労だけでなく、それに付随する様々な葛藤や苦悩を捉えているところが観る人の共感を呼んでいるんじゃないでしょうかね。

ドキュメンタリーとしては異例のヒットを続ける、映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』