達成した状態の思考・行動の習慣を想像する

 2つ目のポイントは、目標値から逆算した計画値をスケジュールに落とすのではなく、「達成された状態」の思考・行動の習慣を描き、意識を先にワープさせて、その状態にもっていくということです。

 もう少し詳しく説明しましょう。逆算した計画値の場合、スタート時点で基づいているのは、目標未達の現在の思考・行動習慣です。ダイエットで言えば、太っている生活・運動習慣のまま、我慢と根性で日々頑張ることと一緒です。これは辛く、何かイレギュラーな事態が発生したり、計画通りにいかなかったりしたら、我慢が続かず、簡単に挫折してしまうことでしょう。ダメな自分のまま努力するのはしんどい以外の何物でもないのです。

 そうならないために、まずしなくてはならないことは、「1年後、ダイエットに成功した時に、どんな思考・行動習慣になっているか」を洗い出してみることです。そしてダイエットを始める前に、自分の意識をさきにその思考・行動習慣になじませてしまうのです。この方法だと悩みは一気に減ります。

「我慢して糖質を減らそう」というダイエットに取り組む人の意識ではなく、まず先に、「もうこれだけしか食べなくても十分なんだよね」とダイエットに成功した人の意識に転換させてしまうのです。「あの頃は、まだこんなに食べていたのが嘘みたい。必要な分だけ、これだけ満足」と本気で思い込むのです。

 脳は現状維持を基本に考えるようにできているのです。これは、「恒常性(ホメオスタシス)」と呼ばれる性質で、環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする働きです。

 ですから、「今の当たり前」から「未来の当たり前」に意識を変え、「脳を騙す」ことで人間の思考・行動は簡単に切り替えることができるのです。

 これは前回の記事(「疲れた中高年を救う術:マインドフルネスと解決志向」)で解説した「解決志向」に繋がります。「体に悪いので禁煙するように」とどんなに説明、説得しても「俺の体だし、俺の人生だ。好きにさせてくれ!」と一切聞く耳を持たなかったおじいさんでも、「孫が大きくなったら一緒に釣りにいきたい」と未来の姿を思い描いた途端、自然にタバコを吸わなくなった、ということがあるように、達成した時の姿の思考・行動習慣に一気に意識を先に変え、その思考・行動習慣に今を合わせるように近づけることが目標達成の一番の早道なのです。

 5万人のリストラと6000名以上のリーダーの選抜と育成に携わってきましたが、目標を達成し続け、成長し続けるリーダーは必ず最初に達成した姿の思考・行動習慣に「先に」変化していました。

挫折したら「なかったこと」にできる小さな行動目標にする

 自分の思考・行動習慣を、実践よりも先に、目標を達成した状態にワープさせることができたら、その目標の半分は達成できたようなものです。後は、日々挫折しないようにストレスなく、すぐにできる簡単な目標を立てて、日々積み重ねていくのです。これが3つ目のポイントです。

 人間は自分の能力は高めに見積もるもの。それゆえに、小さなつまずきで挫折してしまうものなのです。だったら逆に、挫折しようがないくらい、小さな行動目標を立てるのが賢いやり方です。

 運動習慣がない人がいきなり運動すると筋肉痛や下手をすると肉離れなど怪我をしてしまます。そこでスクワットなら1日1回。翌日は2回。ムリそうなら回数は増やさない。これくらい誰でもできそうな、逆に言うと、できない言い訳がないくらい小さな目標がいいのです。意志の力が1mmも必要ないくらい小さくするのがポイントです。1日1回でも1年後にはスクワット300回以上になります。これができれば筋力は相当アップし、ダイエットでも成功しているのではないでしょうか。

 これを読んで、「そんなに継続できないよ」と思った人も多いでしょう。そう。こんなに小さな目標でも、人間は挫折してしまうこともあります。それが人間です。だから、その時は「喜びも悲しみも今日一日」と笑い飛ばし、また明日から小さな目標からスタートすればいいではないですか。

 スクワット3回で挫折したなら、翌日また3回から始めればいい。なんなら2回でも構いません。「三日坊主」は根気のないことを表す言葉ですが、「三日坊主」も繰り返せば立派な「継続」です。三日坊主で終わっても、翌日からまた三日坊主をはじめる。これの繰り返しでよし、と割り切りましょう。「10年間の継続」というと立派に聞こえますが、三日坊主を10年間繰り返していれば、その内容は大差ありません。それくらいの軽い気持ちで、心の負担にならない新年の目標を立ててみてはいかがでしょうか。