就職活動の早期化や長期化が起こるとすれば、それは誰かにとって幸せなのだろうか。

(児美川 孝一郎:教育学者、法政大学キャリアデザイン学部教授)

 前回の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54507)では、経団連の中西宏明会長による就活ルール廃止の表明以降の騒ぎが、結局のところ、経団連ではなく、政府が新たにまとめ役になる形で就活ルールを「当面」維持するという結論に落ち着いたこと、ただし、今後は、募集や選考の時期までが共通に仕切られるという意味での「新卒一括採用」は縮小し、「通年採用」が増えていく可能性も考えられることを指摘した。

 もうひとつ、重要な点は、その場合の「通年採用」は、欧米のように卒業後の採用がメインとなるという意味ではなく、きわめて日本的な形態であるが、新卒(在学中の学生)をいつでも採用できるという意味での(前倒しや早期化を含む)採用活動の「通年化」となる可能性が強いことについて注意を促した。

 さて、こうした状況が到来するとすれば、それは、大学教育にどのような影響を及ぼすのか。これが、今回論じてみたい点である。

想定される事態の推移

 ただその前に、以下の議論を誤解なく読んでいただくために、今後の事態の推移についての筆者の状況認識を、(あくまで想定ではあるが)確認しておきたい。

 実は、前回の記事の脱稿後に開かれた政府の「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議」の第2回会合(2018年10月29日)では、すでに決定していた2021年卒(現在の大学2年生)だけではなく、2022年卒(大学1年生)についても、現行の就活ルール(大学3年3月に説明会解禁、4年6月に選考解禁)を維持する方向性が、事実上確認されている。その意味では、就活ルールは、当面は存続していく。

 ただ、それでも想像されるのは、ルールは現在でも守られないことが多く、実質的には形骸化しており、今後は、形骸化の実態がさらに進む可能性があるという点である。具体的には、学生が内々定を得る時期がいっそう早くなり、大学3年6月頃のインターンシップの説明会開始よりも以前に、企業が学生と接触する場面も、さまざまな形態で、数多く設定されるようになるだろうということである。