2016年のGTEの様子。右端は、カリフォルニア州ハーカー高校のジャストン・グラス先生。

 日本のオープンイノベーション促進には何が必要なのか? 通商産業省/経済産業省で貿易振興、中小企業支援などに携わり、現在はベンチャーエンタープライズセンター理事長を務める市川隆治氏が、諸外国の実例とデータに基づき、オープンイノベーションの環境について議論を重ねていく。(JBpress)

【第5回】「驚きの連続だったエストニアのベンチャーイベント」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54373

「起業家教育」をいつ始めるか

 前回から、ベンチャーエコシステム(生態系)の、地面の下で見えていない労働市場と教育について論を進めている。

 なぜそのような議論をしているのか、もう一度述べておきたい。

 あるベンチャーエコシステム研究会で、第2回で示したようなベンチャーエコシステムの議論をした際、ここでは見えていない労働市場や教育が日本では問題なのではないのかと指摘したのである。だが、他のメンバーは「ご指摘はそのとおりかも知れないが、それはそれとして、今回はベンチャーエコシステムの研究なので・・・」と、はぐらかされてしまった。

 しかし、木に竹を接いでいては、育つものも育たない。日本の現状は、米国や中国のようなスタートアップ先進国とは決定的に異なり、労働市場や教育がガラパゴス化しているから、大学生や若者がいきなりスタートアップに目を向けてはどうかと言われても、多くの場合、馬耳東風となってしまうのではないだろうか?

 私のいるベンチャーエンタープライズセンター(VEC)は1975(昭和50)年に設立され、43年の歴史がある。1975年と言えば、まだシリコンバレーも黎明期であり、そのような頃から諸先輩はベンチャーの重要性を看破し、その振興のための手を打って来ている。

 それから現在に至るまで、経済産業省にもいろいろな形で、VECに関わった者がたくさんいる。彼らにはよく言われる。「まだ同じことをやっているんだね」。

 確かにこの43年間、中小企業政策でも新規産業政策でも、ありとあらゆる政策資源を投入してきている。なのに第1回で示したように、米中とは桁違いの差が出てしまっている。ベンチャーエコシステムの、見えていない地面の下も調べないといけないと考えているのはそういうことである。