第1回目は2016(平成28)年8月に実施されたが、その様子を目の当たりにした当時の私の感想は、「学び方革命」というものであった。革命というと大げさに聞こえるかも知れないが、日本の常識的な高校教育からみれば、もうこれは革命と形容するしかなかった。もちろん「教え方革命」でもあるので、同じレベルの教え方をするためには、教師の側も相当変革をしなければならない。
そもそも「教える」という上から目線の言葉は、先生にはふさわしくない。知識を教えてくれるのは今やインターネットであり、AIである。問題はいかにしてそれらを使い倒すかであり、先生はメンターとして広い視野から生徒たちの議論にアドバイスをする存在であるべきなのではないだろうか。
「革命」と表現する第一の理由は、シリコンバレーの高校で教えるジャストン・グラス先生(元々は公認会計士)の出色の教師としての資質である。早口の英語で機関銃のように言葉の弾が飛んでくるのに、生徒たちは圧倒されとおしだ。
ちなみに米国のほぼ中央部に位置するカンザス州の高校から女子生徒2人が参加していたので聞いてみると、米国人の自分たちでさえ早すぎて戸惑ったので、日本人生徒がついていけるのか心配だったとのことであった。サポーターとして参加してくれた帰国子女の日本人大学院生が、ところどころ日本語に通訳してくれたのは、生徒にとっては有り難かったと思われる。
教師としての資質といえば、22人の生徒(日本人17人、米国人2人、パキスタン人2人、ベトナム人1人)を把握する能力は凄い。2日目の朝、生徒たちに名札を伏せさせ、一人ひとりのファーストネームの記憶を披露したが、外国人の名前であるにもかかわらず、8割方は当たっていた。のみならず、最終日に修了証を手渡しする際、各生徒の個性や頑張った点を一人ひとり丁寧に指摘してみせた。そして何よりも、教えることへの情熱が感じられた。
第二には、徹底して生徒たちに考えさせることだ。初日に近くに座っている生徒同士4~5人でチームを作らせ、以後そのチーム単位でビジネスプランを考えさせ、講義とチームディスカッションを交互に実施していくのだが、ディスカッションタイムにはそれぞれのチームに的確なアドバイスを与えていく。
実は、初日に放射性廃棄物処理を何とかしたいというアイデアを出した生徒がいたが、先生は難しいから止めとけとは言わず、どういうことを考えなければならないかをアドバイスし、あとはチームでのディスカッションに委ねていた。結果、そのチームは夜中まで議論して別のプランに変更したようだ。見ず知らずの生徒が集まったチームであるにも関わらず、正味2日ですぐに打ち解けて、熱心な議論が展開されていたが、目は真剣そのものだった。
チームリーダーとなった生徒が自分のアイデアが採用されず、チームがバラバラになりかけると、リーダーたる者“servant leader”として、自ら率先して事に当たるべしとアドバイスが飛んでくる。生徒の考えるビジネスごとに、問題点や考えるべき点を次々に指摘していく。この辺りは高校がシリコンバレーにあり、ベンチャーの情報の真っただ中にいるのと、自分の生徒もインド系の2世、3世の起業家の子弟が多いという環境からくるのかも知れない。