ところが、ゴーン会長の仇敵であるこの銀行出身の若いエリート大臣が、2017年5月の大統領選で当選する。今度は一大臣ではなく、国会元首、大統領となったのである。ゴーン会長としても、ルノー退任も覚悟せねばならない事態となった。

 しかし、今年の2月の人事ではゴーン会長の続投が決まった。大幅な若返り人事が行われると予想されていたのが、このような結果になったのには、ゴーン会長がマクロン大統領の要求を飲んだからではないかと思われても不思議ではない。

 マクロン大統領は、予てからルノー、日産、三菱自動車の三社の経営統合を進めることを主張しており、ゴーン会長は、続投するために、その主張の少なくとも一部は容れたのではなかろうか。

日本政府は”クーデター”を察知できていたのか

 ゴーン会長は、経営統合という形ではなく、それぞれの会社が自由に活動をしながら協力し、緩やかな統合を図るというのを理想としていた。そのために三社すべての会社の会長に自ら就任し、その存在をいわば「扇の要」として理想を実現しようとしたのである。しかし、マクロン大統領が誕生すると、その理想も妥協の余儀なきに至ったようである。

 そうなると、日産はフランス政府の傘下に入ってしまうことになり、これは日産プロパーの日本人幹部にとっては愉快な話ではない。そこで、ゴーン会長の今回の容疑対象である不正を内部告発することによって、一種のクーデターを行い、ゴーン追放となったのではなかろうか。

 私が知りたいのは、日本政府は今回の件にどこまで関与しているのか、またこのような「クーデター」の動きを事前に察知していたのかということである。本当に何も知らなかったのなら、政府としての体をなさない。

 フランス政府に対抗できるのは日本政府である。日本の企業が、外国政府の支配下に入るのを黙って見ているようでは話にならない。

 また、これも推測の域を出ないが、役員報酬の過少記載の背景には、高額報酬を問題にするフランス政府からの批判を避ける目的もあったのではなかろうか。

 フランスは、アメリカとは異なる。天文学的な役員報酬を問題にしないアメリカと違って、フランスは労働組合の強い社会主義的な国である。マルクスより前に、世界で初めて社会主義を体系的に思想化したのはフランスである。

 フランスと日本は似ている点もある。今回のゴーン会長逮捕劇の裏に、日本とフランス、ルノーと日産、官と民の関係をめぐる複雑な関係があることを忘れてはならない。