11月14日の日露首脳会談では、日本側からの要望により、「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉の加速に合意」した。つまり、日本側が4島一括返還から、2島先行へシフトしたわけだが、それならプーチン政権は喜び勇んで2島返還に応じそうなものだが、そんなことはない。

 15日、プーチン大統領は記者会見で「ロシアに国境問題は存在しない」「日ソ共同宣言には2島引き渡しの条件についても、主権についても書かれていない」と発言し、直前の首脳会談での「日ソ共同宣言を基礎として~」合意を受けて、「2島はもう確実。あとはプラスアルファだ」と過熱する日本側を牽制した。さらに、18日にはペスコフ大統領報道官がロシア国営放送で、「自動的に引き渡すことは絶対にない」と断言した。

 こうしたロシア側の発言を受けて、首脳会談直後は前述したように「2島はもう確実。あとはプラスアルファだ」といった論調で過熱報道していた報道各社も急速にトーンダウン。「ロシア側はすんなり2島引き渡すことはなさそうだ」との解説に移行している。

 ただし、冒頭に記したように、ロシア側は引き渡し後の米軍の展開に懸念を示しているため、それがロシア側の後ろ向きな対応の原因だと短絡的に解説している論調が多い。しかし、繰り返すが、プーチン政権はこれまで一度たりとも「米軍が展開しないのであれば、2島を引き渡す」という言い方をしていない。「引き渡す」という言質をとられることを、明らかに意識的に回避しているのだ。

 日本政府、そして多くの日本のメディアが陥っているのは、「自分に都合よく考える」という情報分析の誤謬だ。つまり、「ロシア側が日ソ共同宣言を認めているのだから、2島は引き渡すつもりに違いない」との思い込みである。

重要なのはプーチンの「具体的な約束」

 こうした問題では当然、相手には相手の思惑があり、それを推測しなくてはならない。それにはまず、実際に相手がどういう言動をしてきたかを分析することが重要だ。

 プーチン政権の語法には、特徴がある。必ず言い逃れる道を確保した言い方をし、絶対に言質をとられることは回避するのだ。たとえば、「日ソ共同宣言を基礎として~」という言い方は、「基礎とはするが、それをそのままやるとは言っていない」と言い逃れが可能だ。「条件が書かれていない」との言い方は、「平和条約締結後すぐに引き渡すとは書かれていない」と言い逃れられる。「主権についても書かれていない」との言い方はもちろん「領土を譲るとは書いてない」だろう。しかもプーチン大統領はあくまで過去の文書についての評価という形式で話しており、現在のロシア政府の政策表明とはならないように注意深く話している。