ロシア側がどう考えているのか、ロシア当局側を取材して「裏取り」すべきだが、それがされずに日本政府側の一方的情報だけで報道・解説されている。これは実はもう四半世紀以上、繰り返されてきたパターンである。これまで何度も「領土交渉進展か!」と報道され続けてきたが、周知のとおり1ミリも動いていない。それらの報道の「空振り」は、いずれも日本政府側情報だけに頼り、ロシア当局側への裏取りが疎かにされてきた結果だ。
ロシアが最も経済的に破綻していたゴルバチョフ時代末期からエリツィン時代にかけ、筆者はモスクワに居住して当時のロシア政官界を取材したが、領土をカネで売るなどということは、ロシア政官界では論外の話だった。「相手は困窮しているので、北方領土をカネで買えるだろう」などと言っていたのは日本側だけだ。
筆者はゴルバチョフ時代から何度も「ロシア側には領土を還す気はない」という記事を書いてきたが、日本では政府発情報による期待を煽る報道が繰り返された。現在もその延長にある。この北方領土問題については、「過去には解決(返還)のチャンスがあったが、今は米露の関係悪化によって難しくなった」との論調もあるが、ロシアの歴代政権の過去言動を検証すると、そうではなく、「これまで一度もロシア側は1ミリも返還など考えたことはなかった」とみるべきなのだ。
しかし、そろそろ日本政府情報(当然、政治的な思惑がある)だけに頼らず、ロシア側の言動を検証した報道を期待したい。「ロシア政府は2島引き渡しの約束を意図的に回避している」という事実がある以上、「2島はもう確実。あとはプラスアルファ」「交渉のポイントは米軍を展開させない確約」など、2島引き渡しを前提とした議論は、少なくともロシア側から「引き渡す」という確たる言葉が出ない間は、いずれも見当外れではないだろうか。
「ロシア側は日本の経済支援を喉から手が出るほど欲しがっており、そのために日本との平和条約締結を熱望しており、小さな2島ぐらいは差し出すはずだ」との見方もあるが、そうした見方はあくまで想像であり、ロシア側は決してそうした発言をしていない。仮にロシアの真意がそうなら、今回などはロシア側が積極的に交渉への意欲を示し、具体的な条件を明示して日本側に打診してくるはずだが、実際には煙に巻くようなコメントで領土交渉の進展を先延ばしにしている。ロシア側からこれまで積極的に言ってきたのは、9月に提案された「前提条件なしで2018年末までに平和条約締結を」、つまり、領土の話を抜きにした平和条約締結という話だけだ。
こうしたロシア側の言動から推測されるのは、ロシアは単に日本と敵対関係にならないように、日本側の原則的問題である北方領土問題については「期待だけを持たせて手懐(てなず)けておく」「領土の原則的な問題に関わらない部分で関係改善を進め、幾ばくかの経済協力を引き出す」政策を続けるということだろう。その間は、少なくともロシア側には外交上も経済上も一切の損失はない。実際、これまでの四半世紀が、それを裏付けている。
なお、この2島返還への期待がいかに実体のない幻のような話なのかは、下記の拙稿にその根拠を提示しているので、ぜひご参考願いたい。5年前の論考だが、その後もこれを覆す情報は出ていない。
◎「『プーチンは2島返還で決着したがっている・・・』根拠なき定説はなぜ生まれたのか」(2013年5月7日)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37716