もともと「プーチン政権は2島返還で決着したがっている」という幻想の始まりは、2001年のイルクーツク声明での「日ソ共同宣言が、両国間の外交関係の回復後の平和条約締結に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認」という文言にあった。だが、これも「交渉プロセスの出発点」としているだけで、「共同宣言のとおりにやるとは言ってない」という理屈になる。

 ロシア側が「米軍の展開を懸念」してみせているのも、懸念してみせただけで、仮にその懸念が払拭させても、ロシア側からすれば「それはそれとして、懸念が払拭されれば引き渡すとは言っていない」ということになる。

 とにかく重要なのは、プーチン政権が「日本に具体的に何を約束したか」だけである。日ソ共同宣言を基礎としても、「引き渡す」とは一度も言っていない。その意味するところは明らかだ。「引き渡す」との約束は絶対にしないということだ。

 ロシア政府は今でも正式に「4島はロシアの領土であることは疑いない」との立場を崩していない。2島の引き渡しとなれば、その政策の変更を意味するが、ロシア政府からそうしたアナウンスは全くないし、その兆候すらない。ロシアでも当然、領土を1ミリでも外国に引き渡すとなれば、大きな論争になるが、その兆候もない。

 15日のプーチン大統領の発言からも、ロシアが2島の主権を放棄しないことは明らかだ。主権を放棄せずに、領土を外国に譲り渡すなどということはあり得ない。ペスコフ大統領報道官は「妥協はあり得るが、国益に反する妥協はない」と断言しているが、ロシア側が出してくる妥協案はせいぜい「日本企業への優遇」くらいのものだろう。

日本の報道が「空振り」を繰り返す理由

 こうした「プーチン政権が一度も2島を引き渡すと言っていない事実を直視しない」ことは、日本政府の情報分析の致命的な誤謬(安倍政権だけの問題ではなく、歴代政権全部の)だが、報道各社の論調も同じ誤謬が多い。それには理由がある。日本の報道各社は、日露交渉という相手のある問題でも、情報のほぼ全てを日本政府から得ているからだ。