アルタミラ洞窟の壁画 アルタミラ博物館と D. ロドリゲス, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
(髙城 千昭:TBS『世界遺産』元ディレクター・プロデューサー)
5歳の少女が、教科書を書き換える大発見!
1981年に大ヒットしたアメリカ映画「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」は、考古学者インディアナ・ジョーンズ氏が世界中のお宝を探して、まだ見ぬ遺跡へと足を踏みこむ冒険活劇である。だが現実の考古学は、土をコツコツと掘り起こして、出てきた破片を1個ずつ分類するような忍耐強い仕事だ。何も発掘できず、空振りの日が多いに違いない。それなのにアマチュア研究家やド素人が、教科書を書き換える歴史的な大発見をすることが偶然ある。誰もがロマンを夢見るのも無理はないだろう。
例えば世界遺産「秦の始皇帝陵」(登録1987年、文化遺産)では、近郊に住む農夫が鍬で井戸掘りをしている時に、何か硬いものが当たったという。掘り返してみると、人間並みにデカい陶製の人形(俑)が出てきた。これが紀元前3世紀、始皇帝陵の東1.5kmに陵墓を守るため埋葬された、8000体におよぶ軍団「兵馬俑坑」発見のいきさつだ。等身大で1体ずつ顔や装束が異なり、実際の兵士をモデルにしたと考えられる。当初は、緑・赤・青・紫などで鮮やかに彩色されていた。
始皇帝陵そのものは、高さ76m・底辺350mの巨大なピラミッド型の土塁であるが、文化財保護や墓荒らしを防ぐために、発掘は未だされていない。地下30mには都を模した地下宮殿があり、水銀を満たした川や海が存在するらしいが、あくまで伝説に過ぎない。世界遺産の決め手になったのは、兵馬俑坑の“発見”があればこそだ。
今から150年近くも昔の1879年夏、スペイン北部にある洞窟で5歳の少女マリアが手提げランプを片手に、ほのかな明かりに揺らめく天井を見上げた。
「パパ見て、牛の絵があるよ!」
これが、世界遺産「アルタミラ洞窟」(登録1985年、文化遺産)の名高い発見エピソードである。父のマルセリーノ・デ・サウトゥオラはアマチュア研究者で、洞窟の入口付近で旧石器時代の地層を調べていた。そこにはヒトの居住跡があり、動物の骨や角でできた道具類、石器が出土していた。しかし常識に縛られない娘は、光がまったく届かない洞窟の奥へと迷い込んだ。そして横穴の突き当りエリアで、天井を埋め尽くすかの如く描かれた20体の野牛(古いタイプのバイソン)を見つける。小っちゃな子供なのが幸いして、かなり低い位置にある壁画に目が向いたのだろう。
1万4500年前、現代ヨーロッパ人の祖先であるクロマニョン人は、岩肌の凸凹を活かしながら、黒(木炭)で輪郭をとり赤(ベンガラ)でボカシを入れ立体感を出した。野牛がうずくまり・振り向き・吠える姿は写実味にあふれ、先史時代のヒトによる高い芸術性を示している。初めて太古の絵が、現代人の目にふれた瞬間だった。
