1つ気になるのは、社内に多様な価値観が混在していると、合意形成に時間がかかり、意思決定が遅くなるのではないか、ということだ。

 「確かに国籍の違う人がいれば、考え方も違います。でもだからこそメンバーが特定の価値観に縛られず、また互いのポジションを気にすることなく、みんなで合理的な“解”を探そうとするんですね。だから合意にいたるのもむしろスピーディです」

 サイエンス・コミュニケーション統括の飯田さんもPMJのオフィス内のコミュニケーションは日本企業と違っているという。

 「フィリップモリスには経営トップから最前線の担当者までが、同じ目線で話ができるオープンなカルチャーがあるのは確かです。わりと各人が思ったことを言い合えるので、話が早いですね」

 「当社には帰国子女や海外勤務経験者も多く、多様な人がいる中での話の進め方のスキルを持っている人が多いということもあると思います」

 PMJには、すでにそうした多国籍のカルチャーで育った人や、慣れている人が集まっているようだ。

 しかし社員の海外経験もさることながら、多様な人たちの意見が素早くまとまる土壌がPMJにはあると井上副社長はいう。

 「それを作っているのが会社のビジョンなんです。私たちが社会的に批判の多いたばこ会社でなぜ仕事をしているのかといえば、IQOSという製品を通じて『煙のない社会を目指す』というフィリップモリスのビジョンに全員が共感しているからです」

 「一人ひとりのバックボーンは違っていても、全員が同じ方向を向いて仕事をしていることが、組織に結束を生み、生産性を高めている要因だと私は思います」

 日本企業が働き方改革を進めるために見逃せないのは、先駆的な制度を採り入れることよりも、会社のビジョンを見直すという根本のところかもしれない。

 次回は、再びスイスのキューブの研究者の声を取り上げ、企業が働き方改革を成功させるためのカギとなる、会社のビジョンについて考えてみたい。