しかし、21世紀に入ると、自然の脅威は津波や気象の狂暴化の姿をとって、日本人に襲い出してきた。

 2011年3月11日、東日本大地震の津波が東北を襲った。2015年9月10日、首都圏の一級河川の鬼怒川が破堤した。2018年7月西日本を豪雨が襲い200人を超える犠牲者を出してしまった。津波や洪水が激しく家々を飲み込んでいく姿が、テレビ映像として全国に発信された。日本人は、改めて自分たちが脆弱な国土に生きていることを知った。

余儀なくされる安全な土地への撤退戦

 地球温暖化とともに、未来の気象はますます狂暴化していく。

 図8は国連気候変動の政府間パネルにおける気温上昇の予測図である。どのモデルでも100年後の気温上昇グラフは上に凸となっている。つまり、100年後の気温上昇は落ち着く方向を示している。

図8 シナリオ別世界平均気温の上昇予測
出展:IPCC(国連気候変動の政府間パネル)

 ところが海面上昇は異なる。図9は海面上昇の予測モデルである。100年後の海面上昇のモデルのグラフは全て下に凸となっている。つまり、海面上昇は100年後から本格的に開始されると予測されている。ひとたび海面上昇が開始されるとそれは螺旋状に進行して、何百年間、何千年間も継続していく。

図9 シナリオ別海面上昇の予測
出展:IPCC
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 海面上昇は海に面した日本の沖積平野に対して、最も重大な危機をもたらしていくこととなる。

 日本人はこの日本列島の中で、永遠に生きていかざるを得ない。

 自然災害の脅威は人間の事前の想定をあっさりと超えていく。河川堤防の強化、遊水池の建設、ダムの再開発など着実に進めていかなければならない。しかし、何百年先を見通すと、日本列島の安全は点と線だけでは守れないことは明白である。

 未来の日本列島の人々を守っていくには、国土の土地利用の見直しという面的な政策が不可欠となっていく。

 江戸時代以降400年間で危険な日本列島を創出してしまった。未来の日本は400年間かかって安全な土地への撤退戦を余儀なくされる。

 未来世代においても、治水は日本の宿命となる。