本の売れ行きを大きく左右するのが装丁(ブックデザイン)だ。多数のミリオンセラーのデザインを手掛けた装丁家、坂川栄治さんが、東京・下北沢の書店「本屋B&B」で開催されたトークイベントで、自らが実践する「売れる本をデザインするための心構えと技」を語った。坂川さんが装丁を手掛けた本のうち、100万部を超える販売実績を持つものは13冊を数える。
2018年3月4日に開催されたこのイベントを企画したのは、同じ装丁家の折原カズヒロさん。装丁家同士が集まって自作を語り合う「装丁夜話」を定期的に開催しており、今回はスペシャル版という形で一般公開するイベントとして、著名な坂川さんを呼んだ。
折原カズヒロさん(以下、敬称略) 坂川さんは装丁の仕事をするときにゲラ(本文の校正紙)を読まないそうですが、それはなぜ?
坂川栄治さん(以下、敬称略) 読むときっと自分の意見が出てしまう。それはよくないことで、文句になる可能性もある。「え、こっちの方向に行くんですか」みたいに。「違うと思いますよ」って始まったらケンカになっちゃう。そこまでやる気はないんです。思いが入っちゃうとロクなことがないんだよね、この仕事に関してはなんとなくそう感じる。
一番本の中身を知っているのは編集者。その人から本の特徴を聞き出すんだけどいらない部分もある。どういう顔にして売り出すかという話を1時間の打ち合わせでやらなければいけない。そうやって聞き出したものを以前は鉛筆でサラサラッとラフを描いて、あいまいなものでお互いに共有していた。そのころが楽しかったな。人の頭にしかイメージがなくて、実際に出来上がったときに初めて「おおーっ」と言われる。そういうワクワクを味わえたんだけど今はちょっとね。
折原 ラフの段階でかなりはっきりわかるものを作るようになりましたからね。
折原 坂川さんご自身はどういう本がお好きなんですか。
坂川 日本の本ってあまり読まないんですよ。水分が多すぎてイヤになるの。海外の翻訳物のドライな部分の方が逆に訴えられる。
折原 僕はもっと坂川さんはウェットなものがお好きなのかと思っていました。
坂川 なぜキライかというと、多分自分がどっぷり浸かるタイプだから。浪花節の人間だと思う。だからあえてそこに触れないんだよ。
折原 坂川さんの装丁にもそういう感じがありますよね。距離感が必要ということじゃないですか。
坂川 そうそう。距離感があるというのが一番自分にとっての仕事のやり方ですね。ただそれがほかの同業の方にあうやり方かどうかはわかりません。自分はこうやって30年の間にいくつかミリオンセラーを出しましたけど、それは割りきっているからなんです。作品を作るという意識は自分の中にないんです。売れてナンボのもんじゃいという感じが強くて。