ある事情から『がんばる理由が、君ならいい』(0号室著、KKベストセラーズ)という本を読んだ。本当に大好きで、愛してやまない女性と結婚し「最大級の幸せ」を毎日実感しながら生きる男性が、その極意やコツといったものをアドバイス形式で語る内容の本だ。

 表紙のカバーの折り返しに「後悔より、ありがとうを」とある。本当だろうか。正気を疑う。これでもかとプラス思考を説き、自らの心を傷つけないことを第一義とするアドバイスの数々。どれほどの恋愛マスターかしれないが、あまりにふんわりと軽いそのアドバイスの連なりに、元将棋指しの「ひふみん」こと加藤一二三さんばりに、「全部、分かってましたよ!」と答えたくなる。

 だが、本書は若い層を中心に売れているのだという。私のような中年層とは価値観の異なる、これから恋愛へと踏み出す世代の指南書として、需要があるのだろうと思い直す。

 しかし、酸いも甘いも経験した大人にとっては、やはり何やらもの足りない。相手に対して「ありがとう」という感謝すらも伝えられないような、後悔にみちた恋愛。

 巷を騒がせる小泉今日子と豊原功補の恋のような。いや、その二人がどのように愛を育んだのかは、当人たちしか知るべくもないけれど、お互いに50代になってなお、恋愛感情を抱けるって、素直にその感情に従うことって、実はすごいことだと思う。小泉今日子が、自ら不倫関係を告白したことも相まって、この「事件」は、日本の恋愛観をイタリアやフランスのそれへと近づけるだろう。成熟した大人の、抑制の効かない恋。映画「マディソン郡の橋」のような、生涯一度の確かな愛。

 背伸びして疑似体験したいという人、そして恋愛の時代をすでに通り過ぎてしまったと考えている大人に、少し気が早いが「今年のベスト1」候補となるこの小説をすすめたい。

1ミリの後悔もない、はずがない』(一木けい著、新潮社)

 少年は青年を経て男性となる。だが、少女には「青年」に当てはまる言葉がないということに、この本を読んで思い至った。