潮目を読むために、なんにでもアンテナを張っているわけです。それが関係ないと思っていても、いざというとき仕事の関わりとして出てくるんです。

折原 その余分な知識を得ていることが、自分の中にたまっていっている。

坂川 そう、結局好奇心なんです。電気掃除機みたいになんでも吸い上げて。風が吹けば桶屋が儲かるという話があるじゃないですか。まるきり違ったところに影響が出るという。ものごと全部そうだと思っているから、一元的なところでだけ見ちゃいけなくて、複眼的にいろんな絡みを見ていて「あ、ここまでいくのか」そういうのが元々好きなんだよね。

折原 ここからは、実際に具体例を見ながらお話しいただきましょう。

(注:以下では単行本を基に話をしており、文庫版は装丁が異なる場合があります)

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

坂川 これはミリオンセラーにはいっていませんが、ノーベル受賞で話題になっているので紹介します。

わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ著、ハヤカワepi文庫)

 編集者と打ち合わせをしているときに、「自分は中身を読まないので、キーになるものってない?」と言ったら「カセットテープとかが出てきます」というので「あ、じゃ写真を撮りましょう」となりました。ただ、打ち合わせをしている間に「メーカー名が出てしまうし、シャープすぎるな」ということで、架空のカセットテープをリアルっぽくイラストで描いてもらうことにしたんです。この微妙なリアルとリアルじゃない間の感じがよかったんですね。これが写真だったらみなさんもそんなに食いつきがよくなかったんではないかと思います。

折原 『わたしを離さないで』は坂川さんの今までの感じからするとだいぶ違うように思います。タイトルの使い方とか。

坂川 これタイトルが小さいでしょ。小さいのをいつかやってみたいと思っていました。「どーんとやると目立つ」というのはいかにもな発想なんだけど、小さくても目立つというテクニックを以前からやってみたくて、これはピッタリだなと思いました。絵柄がシンプルだからそれができるんです。