それと、そういうのができるのは売れるのがわかっている人だからなんですよ。村上春樹さんもそうだけど、デザイナーが自由にやっても売れるんですよ。だったらちょっと変わったことをやってみようという思いは少しありました。

吉本ばなな『TSUGUMI』

坂川 これは20年ぐらい前の仕事です。これは270万部ぐらいいっています。版画家の山本容子というのが同い年の知り合いで、10年ぐらい一緒に仕事をしていたんですけど、彼女から電話がかかってきたんです。「絵ができたんだけど自分でどうしようもできないから、デザインしてもらえない?」と言うから、「お、いいよ」とか言って打ち合わせになりました。

TSUGUMI』(吉本ばなな著、中公文庫)

 絵を見たときに一回やりたかったことがあったんです。女の子が喜びそうなパッケージみたいにできないかなというのがあって。そうしたらちょうどこれが包み紙に見えたんです。この状態の上に文字を入れてもすごく読みにくいので、シールみたいなものにタイトルを入れるとちょうどいいやと思ってやったんですよ。そのころは目立った方がいいから色は赤とかピンクがいいという編集者がたくさんいたんですが、そのときは中間色を提案していったんですね。タイトルを入れたシール部分のベージュとか。カバーをとると表紙のピンクが出てくるとか、きれいな本ということで女性に売れましたね。

折原 そもそも山本容子さんの絵でいこうとなったのはなんでですか。

坂川 先にそういう話が進んでいたわけです。絵の人と編集の人とで。打ち合わせに出版社の部長さんとか偉い人も来るわけですよ。で山本容子に対しては先生扱いなの。横にいる僕には業者扱い。視線でわかるんですよ。「まあいいや、これはしょうがない。山本容子の方が有名なので、どうせ私は陰の人よ」と思って我慢しました。

上橋菜穂子『獣の奏者』

カバーを広げると影の全体像が見えてくる

坂川 ちょっとシカケがありまして、獣というか怪獣が出てくるんですが、怪獣を描けと言われてもイラストレーターは困るだろうなと思って、1時間の打ち合わせの間に考えました。カバーを外して表から裏までいっぺんに見ると、子どもが空を見上げていて飛んでいる怪獣の影がかぶさっている。こうすると怪獣を勝手に想像してくれるからこっちの方がいいでしょ、と「怖い感じだけど怖くない」ようにしたんですよね。