また、歌詞が徹底して前向きだ。たとえば、今やももクロの代表曲の1つとなった「走れ!」の歌詞は、「笑顔が止まらない! 踊るココロ止まらない! 動きだすよ 君のもとへ 走れ! 走れ! 走れ!」。一方、私の若いころの歌といえば、「青春時代の真ん中は 胸にトゲ刺す ことばかり」のように、感傷的な歌が多かった。この違いは何なのだ、と疑問を抱き、ネットでももクロについて調べてみて、ますます興味を深めた。
ももクロの魅力は,「友情+努力+勝利」という成長物語の黄金のテンプレートを現在進行形のドラマとして実演し、その物語をファンと共有している点にある。このアイドル養成モデルの原型はAKB48である。AKB48は、ダンスや歌が決して上手とはいえない女の子たちが、目の前の壁を乗り越えながらアイドルとして成長していくプロセスをプロデュースする戦略で成功した。ももクロもやはり数々の困難に立ち向かい、さらには友情を育みながら成長し、最後に勝利するという王道の成長物語を実際にやってみせることで、ファンを増やしてきた。
小学生・中学生のメンバーからスタートしたももクロが最初に取り組んだのは、自分たちが作詞した「あの空へむかって」という歌を歌う路上ライブだ。自分たちの目標を歌詞にした歌だから、心をこめて歌ったはずだ。たとえ数人しか聞いていなくても、一生懸命歌う。ももクロの原点がここにある。成長の過程で不和が生じては困るので、素直な性格で、協調性があり、目標に向かって一生懸命頑張る子がメンバーに選ばれたはずだ。メンバーが固定されてからは、家電量販店でのミニライブをまわる夏休み全国ツアーを決行した。この過酷なライブツアーを通じて、しっかりした信頼関係で結ばれ、少々の困難にもたじろがずに、目標に向かってがんばるチームができた。そこで満を持してのステージデビュー。2010年12月に日本青年館で開催された初のホールコンサートでは、1200席のチケットを発売開始30分で完売したというエピソードが語り継がれている。このころから、紅白出場を目標にするようになり、その夢は2年後の2012年に実現した。さらに2014年には、国立競技場での2日間のライブを成功させ、「願えば夢は必ず実現できる」という成功ストーリーを完成させた。
このような成長の過程で、5人のメンバーは、ファンの間で「奇跡の5人」と呼ばれる、すばらしい個性を身に着けた。女性アイドルのキラーアイテムである水着を封印し、人間的な個性を伸ばすことで5人を育てた運営チームの人材育成術は見事である。5人の個性に応じて、「モノノフ」と呼ばれるファンの「推し」も見事に5分しており、5人の個性がいかに異なるかを象徴している。また、ファンの間に独特の文化や倫理観が育まれ、共有されるに至った。自己中心的にならずにみんなが楽しめるように応援する、アウェイのコンサートではももクロ以外の出演者も全力で応援するなど、「ももクロのファンとして恥ずかしくないように」ふるまうことが、モノノフのモラルになっている。ももクロ側も、このようなモノノフ一人ひとりに支えられて自分たちがあるという気持ちをしっかりと持っている。