では、有安杏果はなぜももクロを卒業したのだろうか? 信頼できる仲間がいる。事務所にも感謝している。たくさんの思い出がある。そして何よりも、多くのファンの暖かい励ましがある。これだけ恵まれた環境を捨てるという決断は、なかなかできるものではない。本人は、「疲れた」「やりきった」と述べており、この言葉にうそはないだろう。しかし彼女は歌やダンスが大好きであり、自ら作詞したソロ曲「心の旋律」では、「ぶれない願い それはただひとつ 歌いたい 歌いたい 握ったマイクもう離さない」と歌っている。この曲を含むファーストソロアルバムを2017年10月にリリースし、ソロコンサートを成功させ、ソロ歌手としての将来にも期待が集まっていた。その矢先に、なぜももクロから身を引くという決断をしたのか。ファンにはまったく理解できないだろう。

 この謎について、人間の決断の認知的背景に関心を持つ科学者の立場から、推論してみたい。私の推論が正しければ、有安杏果は、何らかの形でファンの前にきっと帰ってくるだろう

ももクロという人間成長のドラマ

 推論に入る前に、私がなぜももクロに興味を持ち、その動向をウォッチし続けているかを簡単に書いておこう。

 2013年3月、私が「持続可能な社会を拓く決断科学プログラム」の申請準備のために、人材養成のあり方について考えているときに、たまたま出張先で見たNHK番組で、ももクロのクリスマスライブが放映されていた。

 それまで私は女性アイドルにはまったく関心がなかったが、ももクロにはひと目で興味を持った。まず、何よりも「女の子」であることをまったく売りにしていない点に好感を抱いた。振り付けはアクロバティックで、運動量が多く、汗だくになりながら踊っている。とにかく元気だ。「元気ですねぇ。この元気さは、良いと思います」と当時のブログに書いている。