今後、長寿化やテクノロジーの発展により、働き方は大きく変わると予想されている。そうした時代に家族のカタチはどう変わるだろうか。ここでは、これからの変化の時代を生き抜くための方策を「家族」という視点で考えてみたい。
高度成長が可能にした「憧れの家族」
1950年代半ばに日本経済が高度経済成長期に入るまで、日本人の「はたらく」は自営業が支えていた。農業や零細な商工業を中心とした当時の自営業では、家族総出で働くことが基本スタイルだ。実際、1950年代半ばの時点では、有業者の約6割が自営業か家族従業者であり、配偶者のいる女性の就業率も高かった。
こうした風景を急速に変えていったのが、1950年代半ばに始まった高度経済成長である。人々が三大都市圏に大量に流入し、都市部の郊外には核家族のサラリーマン世帯が急増した。こうした世帯では「夫は仕事、妻は家族のケア」という役割分業が基本スタイルであり、事実、専業主婦の数は1955年の517万人から1970年の903万人へと急増した*1。
一部の高所得層の特権であった専業主婦が広がった背景にあったのは、高度経済成長がもたらした賃金上昇だった。労働経済学者の居神浩氏の分析によれば、勤労者世帯の世帯主収入、つまり男性の収入で家族の生活が支えられる条件が整ったのは1960年代末だという*2。
つまり「夫は仕事、妻はケア」という役割分業を経済面で支える条件が整ったのは、高度経済成長が最終コーナーに差し掛かった頃だったといえる。
*1:内閣府『平成7年国民生活白書』による。
*2:居神浩(2004)「家計構造からみた性別役割分業」玉井金五・久本憲夫編著『高度成長のなかの社会政策‐日本における労働家族システムの誕生‐』(ミネルヴァ書房)