実現しなかった「家族のかたち」のバージョンアップ

 1980年代後半以降、女性の「はたらく」を巡る状況が変わってきた。1つの原動力は、男女の雇用機会均等や育児と仕事の両立支援に関わる法制度の充実である。特に2010年以降は、将来の人材不足を見越した企業が仕事と家庭の両立支援の拡充や、女性の本格的な活躍のための施策を強化していることにより、出産後も働き続ける女性の割合が上昇している。

 さらに、1990年代後半をピークに男性の平均賃金が低下するなか、働きに出る妻が増えてきた。総務省「労働力調査」によれば、配偶者のいる25~64歳女性の就業率は、2002年から2016年にかけて54.9%から66.0%へと、実に10%pt以上も上昇している。

 一方で、変わらなかったのは、「夫は仕事、妻は家族のケアと仕事」という家族役割2.0である*3。働く女性が増えたとはいえ、男性と稼ぐ役割、女性とケアする役割は強く結びつき、ほどける気配はなかった。

 総務省「社会生活基本調査」(2016年)によれば、6歳未満の子どもがおり、自分も配偶者も週35時間以上働く雇用者である妻・夫の家事・育児時間は合計で平日1日356分。しかしその内訳をみれば、男性は14.9%(53分)、女性は85.1%(303分)というバランスだ。

 働く女性は増えたが、「夫も妻も仕事し、夫も妻も家族のケアを担う」という“家族役割3.0”への本格的なバージョンアップはいまだ実現していないのである。

*3:厚生労働省「社会生活基本調査」(2011年)によれば、夫婦ともに週35時間以上働き、末子が6歳未満の男性の家事・育児時間は平日1日あたり49分だが、これは夫・妻合計で見た平日1日あたり家事・育児時間の1割程度である。政府のキャンペーンにも関わらず、男性の育児休業取得率も3.16%(2016年、厚生労働省「平成28年度雇用均等基本調査」)にとどまっている。