光冨:まず、BRAF阻害薬の現状からお話すると、現在、薬の承認が遅れています。皮膚のがんである悪性黒色腫の治療薬としてはすでにわが国で承認されているため「適応拡大」なのですが、BRAF阻害薬を使用するためのコンパニオン診断薬の承認申請が遅れていて、承認は半年くらい先になるだろうという状況です。(2017年10月現在)

 日本のがんゲノムのスクリーニングプロジェクトを行なっているSCRUM-Japan(スクラムジャパン)で検査を受けられた肺がん患者さんのうち、誰にBRAFの遺伝子異常があるかはすでに分かっているんです。

 しかし、この検査は国の承認を受けていませんし、受ける予定もないので、今治療をすることができません。また、コンパニオン診断と薬が承認されたとしても、もう一度検査をしなければ使うことができないことになってしまいます。

――なぜそのような問題が出て来てしまったのでしょうか。

光冨:当初は分子診断の重要性、正確性という観点からは、コンパニオン診断というコンセプトは良いものに思えました。しかし、その時点でも、一つの遺伝子異常に対して幾つもの薬が登場し、将来矛盾するであろうことは予測されていました。

 科学技術の進歩でより新しい優れた検査が開発された時、どのように臨床に導入するかを十分検討されていなかったことも原因としてあると思います。

長谷川:BRAFの遺伝子異常が分かっている患者さんのように「薬はあるのに使えない」という状況は、ほかの治療薬でも実際に起こっています。その間に亡くなる方も出てきてしまう。もう少しなんとかして早くできないだろうかと思います。

光冨:コンパニオン診断という仕組み自体を、少し見直していただきたいですね。しかし行政としても一度決めたルールを変えるのはなかなか大変のようです。

「医療、そして自分の人生に向き合っていけるような、その土壌を作っていきたい」

――医療の問題を考え、提起し、世の中を変えていこうとされているお二人の活動は、多くの患者さんに勇気を与えるものだと思います。今後、さらに社会をよくしていくための、お互いに対する要望や思いはありますか。