1956年の日ソ共同宣言が還暦を迎える今年、日ロが従来とは次元の異なる全く新しい関係を築いて領土問題を解決できるか正念場を迎えている。
果たして、12月15日の山口での安倍晋三首相とウラジーミル・プーチン大統領の日ロ首脳会談で「北方領土問題」は進展するのだろうか。
ここで、日本が現代ロシアにおける社会的背景を正確に理解したうえで、ロシアが受け入れ可能な妥協案を出さない限り、両国の全体的関係がいくら発展しても領土問題は決して解決しないという認識が必要だ。本稿では、ロシア側の妥協の限度を踏まえ、山口会談以降の平和条約締結の可能性を探ってみたい。
ロシア社会の愛国主義化と憲法15条問題
ロシア社会では、「クリル社会経済発展計画」やクリル諸島を含む極東への移住推進策が着実に実施され、南クリルにおける軍事基地の建設も進み、クリミア併合後に異次元とも言える愛国主義が急激に高まっている。
ロシアの日本専門家の間でも、平和条約締結後に歯舞、色丹を日本に引き渡すと明記した共同宣言第9項に対する否定的な評価が増えている。
また、領土問題に関するプーチン大統領の「引き分け」発言が、第2次大戦でのソ連の対日戦勝利という文脈で受け止められ、愛国主義団体から強く批判されるという事態も発生した。こうした状況下で大統領が何らかの妥協をすることは容易ではない。
同時に、日本ではあまり議論されていないが、ウクライナ危機以降の欧米との対立状況のなか、対日政策とは直接関係のないところでロシアの憲法裁判所が国際法に対する国内法の優位性を強調すべきとの認識がロシア社会で出始めている。
これまで、両国議会が批准した共同宣言には、「国際法・条約は国内法に優先する」と規定するロシア連邦憲法第15条第4項によって最上位の法的効力が与えられてきた。
だが、筆者が本年10月に得た情報によると、日ロ間の領土交渉を巡って連邦政府と緊張関係にあるサハリン州議会の関係者が憲法15条4項を共同宣言9項との関係で問題視しており、今後の憲法裁判所の判断次第では、憲法15条が骨抜きにされて共同宣言の法的優位性が崩れる危険性がある。
プーチンの覚悟と妥協の限度
それでも、日本から共同宣言9項を基礎とした提案があった場合、プーチン大統領には平和条約を締結して歯舞、色丹を日本に引き渡し、最終的に日本と国境線を画定する覚悟はある、と筆者は考える。
確かに同大統領は9項について、島々がどんな条件でどの国の主権のもとに引き渡されるか書かれていないとの解釈を示してはいるが、それは交渉の「言い値」だろう。
プーチン大統領は、共同宣言を自ら読み込んで9項の義務に従う用意があるとの結論に達し、同宣言の法的有効性を文書に明記することを認めたロシアで唯一の指導者だ。
2004年にはサハリン州社会団体の反対を引き起こしながらも、「ロシアは批准された文書の義務を果たす」と閣議で公言した。2014年には会見で「ロシアも領土問題を解決することに心からの関心を持っている」と発言してきた人物だ。