習近平政権は前政権が実行を先送りしたために積み残された様々な重要改革に取り組んでいる。昨夏までは改革の計画策定段階だったが、昨秋以降、徐々に改革実践のフェーズへと入ってきている。
すでに2つの重要改革にチャレンジしたが、その実践過程で市場から予想外の厳しい洗礼を受けた。政策実行の理念や方向は正しいが、実行段階に入ると思わぬ壁が待ち受けていたのである。
以下では、そのチャレンジの中味と教訓について考えてみたい。
1.地方財政の管理強化
昨秋以降、地方政府の財源調達に関する管理が強化された。昨(2014)年9月21日、「地方政府の債務管理の強化に関する国務院の意見」という行政命令が発表され、地方政府の税金以外の財源調達方法に対する管理が強化された。
これにより従来は地方政府が返済を保証していた金融機関からの借り入れについて、地方政府による保証が認められなくなり、金融機関自身が地方政府の個別プロジェクトの内容を審査して、それに対する貸し出しを実行するか否かを判断するよう命じられた。
また、もう1つの財源調達方法として地方債の発行が認められるようになったが、それについても政府が満期償還を保証することは許されない。金融機関などの機関投資家が地方政府の財務内容を見て地方債の安全性を判断し、発行金利水準や購入額を決める。
金融機関からの借り入れについても、地方債の発行についても、それらによって調達された財源がどのようなプロジェクトに投入されるのかが金融市場参加者によって厳しくチェックされる仕組みが導入されたのである。
その政策理念は地方政府の安易な投資拡大に歯止めをかけるために市場メカニズムを活用するという正しい考え方に基づくものである。
これまではプロジェクトの中身を十分確認せずにどんどん投資を拡大し、不動産開発関連の不良債権や製造業の過剰設備の拡大を招いた地方政府に対して、財政健全化を求める切り札として有効に作用することが期待される内容である。まさに経済構造の贅肉を削ぎ落とし、筋肉質な構造へと改善を目指すニューノーマル政策の基本方針に沿った政策である。
しかし、そこから生まれた結果は全く予想外のものだった。
地方政府による保証が認められなくなったため、地方政府プロジェクトのデフォルトリスクに対する金融機関の警戒心が高まり、地方政府向け貸し出しおよび地方債の消化(=購入)の双方に対して極めて慎重な姿勢をとるようになった。
その結果、地方政府は昨年10月以降、突然財源難に陥った。財源がなければ地方政府プロジェクトの実行は不可能である。全国各地で多くの地方プロジェクトが止まり、地方財政支出の急速な減少がGDP成長率を大きく押し下げる圧力となった。
偶然にも株価の急騰による金融取引の拡大が下支え要因となってGDP(国内総生産)成長率は安定を保ったが、中国経済にとって深刻なマイナス要因を生んでしまったのである。
地方財政の健全化を目指すという政策目的は正しかったが、それを地方財政の現場で担う地方政府と金融機関が必要な実務能力を備えていなかったため、思わぬ事態を招いてしまった。
この政策が発表される直前に徐才厚(元人民解放軍ナンバーツー)、周永康(元政治局常務委員)という大物が反腐敗で逮捕されていたことも、地方政府上層部の慎重姿勢を拍車した。
中央政府は事態の重大さに驚き、様々な対策を打とうとしたが、結局まともな方法では問題を解決することができず、今年4月以降、非常手段に打って出た。
すなわち、市場のチェック機能による地方政府の財源リスク管理の強化という大方針をわきに置いて、とりあえず目先の地方政府の財源確保を優先した。金融機関に対して、従来通りの水準まで地方政府に対する貸し出しの実行と地方債の引き受けを行うよう命じたのである。
これによって、6月以降地方政府の財源調達の目処が立ち、8月頃には地方プロジェクトが再び動き出すようになると予想されている。
とりあえず、マクロ経済への深刻なマイナス効果は食い止めることができた。しかし、目先の景気対策を優先せざるを得なかったため、習近平政権が目指した市場機能の活用による地方財政の健全化という初期の政策目的の実現は先送りされた。
ただし、今回の措置により市場のチェック機能を活用する仕組みは出来上がっているため、今後徐々にその機能を発揮させていくことは可能である。