外科医と著述家の二束のわらじを履き、医療の第一線から鋭い目で現代医学の盲点を書き続けているインド系米国人2世のアトゥール・ガワンデ博士(49)の4作目だ。タイトルは「Being Mortal: Medicine and What Matters in the End」(死は免れない:医療とその究極的な意味とは)。
スタンフォード大学を経て、ローズ奨学生として英オックスフォード大学に留学。その後ハーバード大学医学部に進むが、1992年には休学してビル・クリントン大統領候補のヘルスケア政策を担当、当選後はクリントン政権のヘルスケア・チームを率いるなど当時から型破りの医者だった。
その頃から筆力を発揮し、高級誌「ニューヨーカー」を舞台に「外科医兼著述家」として注目されていた。
著者は、その「ニューヨーカー」論文を加筆し、本を著してきた。2002年出版された「Complications:A Surgeon's Notes on An Imperfect Science」(邦訳「コード・コール:外科研修医救急コール」)では、完全とは程遠い医療の実態を暴いた。
5年後の「Better: A Surgeon's Notes on Perfomance」(邦訳「医師は最善を尽くしているか」)では医者の目から見た医療の生々しい現場を報告。
2009年に出た「The Checklist Manifesto:How to Get Things Right」(邦訳「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」)では医療現場でのミスを最大限に減らすための具体的な指針を示して全米30万部突破のベストセラーになっている。
「医者の仕事とはただ患者を延命させることだけのか」
第4弾は、医療とは何か、医者の役割とは何か、そして病に犯された高齢者の生死とは何かを考察している。
高齢者と言っても十羽一絡げにはできない。その生活環境は様々だ。親子3世代同居の者もいるし、ハイテク完備のデラックスな養護施設に住む者もいる。貧困層のスラムに独り寂しく生きている者もいる。
著者は、病の床に伏した高齢者たちの個々の事例を挙げながら、生きることの意味を考える。
後段では、これら死に直面する高齢者に医者や看護士、医療関係者、家族がどう寄り添い、向き合うかを模索している。
ある1人の高齢男性の例――。
指先に急に痛みを感じる。首を激痛が襲う。2年後、脊柱に腫瘍ができていることを知る。危険覚悟で手術をすべきか、あるいは手術をせずに他の方法で腫瘍が広がるのを防ぎ、様子をみるか。
読んでいくうちにこの高齢者がなんと著者の父親(同じく医者)であることが分かってくる。