韓国・未来高速のジェットフォイル「コビー号」が誰も乗せずに対馬の比田勝港から釜山へ発ってしまっても、まだなお韓国人観光客の入国手続きが続いているようだった。なぜなら、JR九州「ビートル号」のチケットを買おうにも、窓口には誰もいないからだ。
比田勝港にはありあまる電源コンセントがあった
観光案内所の人に聞けば、全員の入国が終わるまで戻ってこないという。入港も出港も手続きは総出でやっているらしい。
いかにも小さな港らしくて微笑ましくもあるが、比田勝まで2時間半もバスに乗ってやって来てさらに港で長い間待ち続け、釜山行きのチケットが買えるのか心配な身には少しいらいらが募る。
仕方がないので桟橋に出て魚を見たり、待合室に戻ってネット検索したりしながら時間をつぶす。と、スマートフォンのバッテリーが少なくなっていることに気がついた。
海外を目前にして携帯電話の電源を失うのは避けたい。万が一はないとは思うが、トラブル時に一番頼りになるのが携帯電話だからだ。
チケットとスマホの電源、2つの心配が重なりさらにいらいらが募っていく。そのときふと前を見ると、柱にコンセントがあった。さらに左右を見渡すと柱という柱にコンセントがついているではないか。
日本の空港では航空会社のラウンジを使えない限り、コンセントはまず見かけない。と言うより、絶対に利用されてはなるものかと、見えるところにはコンセントを置かない設計をしているようだ。
しかし、比田勝港は違った。「まるで自由にお使いください」と言わんばかりである。スマホやパソコンを使う客は想定外の時代に作られたからだろう。
そう考えると罪悪感がこみ上げてきたが、背に腹は帰られない。咎められたら謝ろうと心に決めて恐る恐る電源をつないだ。心の中にやましいことがあるとき人がよくやるように、あたりを見回しながら・・・。