もう30分経った。
店員がカウンターの上に数台の一眼レフカメラを並べて説明を続けている。
店員の話を聞いているのは、2歳ぐらいの小さな子供を連れたお母さんとおばあちゃんである。店員は手振り身振りを交えてカメラを操作してみせ、時にはお母さんにファインダーを覗かせたりしながら、使い方を説明している。
お母さんとおばあちゃんは、カメラに関してずぶの素人のようだ。きょとんとした顔をして説明を聞いているが、本当に分かっているのだろうか。見ていてこちらが心配になってくる。
もしも業務効率化のコンサルタントがこの店を見たら、「なんと非効率的なのか」と顔をしかめるに違いない。
買うのか買わないのか分からないような相手に、なぜそんなに時間をかけて対応しているのか。相手は素人なんだから、うまく説得してさっさと買わせるか、適当なところで話を切り上げてしまえばいいではないか。
それだけではない。店内を見渡すと、客が写真をプリントするセルフプリント機の前にソファが置いてある。客がソファに座り、店員に教えてもらいながら機械の操作をしている。店員が「うわあ、これはいい写真ですね」などと言いながら、プリントする写真を一緒に選んでいる。
セルフプリント機の前にソファなんて置いてあったら、客がいつまでも腰を落ち着けてしまう。そもそも1人で操作してもらうための機械なのに、なぜ店員がつきっきりになっているのか。
さらに、商品の展示棚には、手描きの文字とイラストを描きこんだPOPが至る所に飾られている。カメラメーカーが立派なPOPを用意しているはずなのに、なぜそれらを使わないのか。
大手家電量販店を凌駕するカメラ販売力
ここは、栃木県でチェーン展開するカメラ販売店、サトーカメラのスーパーカメラセンター宇都宮本店。
一見すると、まるで無駄と非効率のかたまりのような店である。だが、実はこの店こそが栃木県最強のカメラ店なのだ。
宇都宮は家電量販店の激戦地区だ。北関東発祥のコジマ、ヤマダ電機、ケーズデンキなどが大型店を構えてしのぎを削る。2005年には宇都宮駅前にヨドバシカメラがオープンし、競争に拍車がかかった。