厳冬の北京に来ている(11月29日記)。この数日前から強い風が吹き、急に寒くなったという。一昨日はマイナス2度だった。本当か否かは分からないが、幸い、この首都の大気を汚染しているPM2.5は風に飛ばされて、この数日はそれほどでもないらしい。

 今回の中国への出張は、中国人民外交学会という中国外務省付属の研究機関と世界平和研究所との「セカンドトラック」(民間外交)の会議に参加するためである。

 もっとも、ここは中国共産党が支配する現代中国なので、欧米で言うような、政党や政府とは一切関係のないような純粋な民間研究機関があるわけではなく、非政府機関間の対話という意味での「セカンドトラック」というのはあまり正確ではないかもしれない。

本音の対話はなかった

 一方で、日中関係が困難に直面する折、こうした政府機関同士ではない研究所主体の対話というのもそれなりに意味がある。本音を双方がぶつけ合えるからだ。

 先方も長らく日本との友好関係を推進してきた中国の知識人たちである。「建前を越えて、腹を割った話もできる」と少なくとも筆者は一昨日まで少なからず思っていた。

 ところが、対話を終えた筆者の率直な印象は、複雑である。尖閣情勢や、歴史問題、さらには世間を賑わす防空識別圏などの中核的な課題では、残念ながら、公式見解以上の創造的な提案が先方から出てきたわけではない。

 自らを客体化した上で、相手の主張を理解しつつ議論ができるか否かが、有意味な知的対話の1つの前提条件だが、中国の人々との議論では、これはことさら困難である。

 なぜなら、中国共産党一党独裁を前提とする限り、そもそも公式見解と異なることは言いようもないからだ。公式見解と異なる意見があるのであれば、それは発言しないに越したことはない。