衆院本会議を通過した産業競争力強化法案

 10月20日に出版した『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)を、参議院の経済産業常任委員長である大久保勉議員が手に取ったことがきっかけで、11月6日に国会の政策会議で講演したことを前回報告した(「誰も気が付かなかった『日本型ものづくり』敗北の真因」2013年11月5日)。

 講演では、今のままの延長線上では日本のモノづくりの明るい未来はあり得ないことを、半導体や電機産業を例に論じ、かなりの手応えがあったと思っていた。

 ところが、10月29日に審議入りした産業競争力強化法案は、11月19日に難なく衆院を通過してしまったらしい。そして、朝日新聞の記者によれば、12月4~5日に参院でも可決されて、法案が成立する見込みであるという。私の講演は、まさに「蟷螂の斧」、屁の役にも立たなかったのだろうか。

 かなり無力感にさいなまれているが、11月28日に朝日新聞の記者の取材を受け、その取材如何では朝日新聞が参院可決直前に産業競争力強化法案に関する特集記事を組むかもしれない。また12月20日には冒頭の大久保勉議員の勉強会に呼ばれており、再度意見を述べる場を与えられている。これらのチャンスに、少しでも半導体や電機産業などの日本モノづくりの競争力向上に貢献できるよう準備をしておきたいと思う。

「産業競争力」とは何か

 今回は、何らかの形で国が関わっている現在進行形の3つの組織、(1)日立製作所、三菱電機、NECの合弁会社ルネサス エレクトロニクス、(2)EUVL基盤技術開発センター(通称「EIDEC」)、(3)産官学の研究拠点であるつくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点(通称「TIA」)について、これらが産業競争力に寄与するにはどうあるべきか、現時点での私の意見を述べたい。

 意見を述べる前に、「産業競争力が高いとはどういうことか」を定義しておきたい。一人ひとりが「産業競争力」について異なるイメージを持っていると(実際そうなのだが)、議論は噛み合わないからだ。

 そこで、本稿では、産業競争力を測る指標を、(1)世界市場での売上高(世界シェア)、(2)利益および利益率、(3)社員数、つまり雇用者数の3つとする。そして、これら3つが高いほど、産業競争力が高いと定義する。

 この3つの中で最も重要な指標はどれかと聞かれたら、「(2)利益および利益率」と答える。例えば、ルネサスは車載半導体(マイコン)で世界シェア1位を誇っている。しかし、利益率は極めて低い、というより利益を出せず慢性的な赤字に苦しんでいる。その結果、雇用を維持できず2012年以降1万人を超える早期退職者を出している。つまり、企業は利益を得なければ雇用も維持できず存続することが困難になる。