今回は以前にさわりだけ紹介したカンボジアに日本人が作ったユートピアをお伝えしたいと思う。ここには日本の進むべき未来を示唆する大切なテーマがたくさん詰まっているからである。自然との共生、ものづくりの大切さと面白さを通した人間の成長、そして真に豊かな生活・・・。
いまだに止まらない製造業の日本脱出
いまや選挙で最大の目玉になったような印象のある「脱原発」。確かに大切なテーマである。しかし、このシングルイシューの選挙にするのはいかがなものか。
日本がいま最も優先して取り組むべきは、円高是正だろう。この1年、アジアを取材してきて強く感じたのは、円高で一度製造業を追い出せば戻ってくれることはないということだ。
例えば、タイのデンソーでは2007年から技能オリンピックに参加している。初の挑戦で見事に銀メダルを獲得、2回目の2009年(隔年開催)には金メダルを取った。
タイ人に技術指導を行っているデンソー・インターナショナル・アジアの美奈川邦彦さんは「2013年7月のドイツ大会では2大会続けての金メダルを目指しています。自信はある」と話す。
2007年、2009年は日本からの技術指導を得てのメダル獲得だったが、2013年のドイツ大会では日本に支援を仰がず、全くの独力での金メダル獲得を目指すという。
海外に出たからには人材育成にも一生懸命に取り組む。日本企業らしい素晴らしい取り組みだが、裏を返せば、いったん海外に出てしまえばその流れは加速こそすれ逆流することはないということを意味している。
日本が長期間放置してきた円高は、アジアの国を富ます一方で日本の雇用を奪う。先日お会いした宮崎県綾町の前田譲町長が言った次の言葉は極めて重く受け止めたい。
綾町はいまから40年前、日本が高度成長で忙しいときに、町を挙げて有機農業に取り組み農業の自立を目指した極めてユニークな町づくりで有名だ。
「隣町が税金の優遇などで大手電機メーカーの工場誘致に成功した。当初は良かったが、円高でさっさと海外に出て行ってしまった。製造業ほどあてにならないものはない」
日本のGDPの大半はサービス産業が生み出している。製造業中心の政策は改めるべきだとの声があるかもしれない。しかし、製造業が生み出す雇用と付加価値の高さは日本に絶対に必要である。
日本のものづくりは現場からたくさんのアイデアを生み出し、創造する楽しみを人々に与えてくれる。ゆっくりと円安に進めていくことは日本の大切な選挙を目前にして最も大切なテーマだと思われる。
まだ極めて貧しい国の1つであるカンボジア。しかし、クメール伝統織物研究所・森本喜久男さんがつくった村で生活する人たちの生活は豊かだった。日本が忘れてしまっている大切なものも息づいている。それを支えているのはものづくりなのである。