9月初めにアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(サミット)の舞台となったウラジオストックが今後、どのように発展していくのか、我々ロシアビジネス関係者の間でも見解は大きく分かれている。
そんな関心と問題意識を持って、筆者は先月(2012年10月)本年3回目の現地出張を行ったので、その際仕入れた情報も加え、ウラジオストックの問題を報告する。
どぶに捨てられたAPEC用の資金4億7000万ドル
11月14日号の「The Moscow Times」紙に、こんな記事が掲載された。
「APEC用資金4億7000万ドル(約380億円)が無駄に~国家会計検査院指摘」
記事によると、2008年から2012年にかけてAPEC施設建設用として政府から提供された資金のうち、施設がAPECに間に合わなかったために、150億ルーブル(4億7000万ドル)が無駄となってしまった」というのである。
さらに検査院によると、APEC関連67施設のうち、9月1日までに稼働可能となったものはわずか23施設で、APEC施設を管轄する役所でまともなコスト見積もりを取ったり、正式な建設許可を取ったものは1つもなかったとの指摘がされている。
その代表例として、会議場の建設されたルースキー島のごみ処理施設、2つの5スター級ホテル、そしてオペラ劇場が挙げられている。とてつもない突貫工事だったことをうかがわせる指摘である。
開業1年前なのに槌音は全く聞こえず
指摘を受けた2つの5スター級ホテル、とはハイアットグループが運営を請け負うハイアットリージェンシー・ウラジオストックホテルとハイアットホテル・ブルニーである。
思い返すと、韓国との合弁企業が運営する「ホテル現代」以外、大型都市ホテルのないウラジオストックに、APEC首脳会議のためとはいえ突如発表されたハイアットホテル建設計画に、度肝を抜かれたのは筆者だけではあるまい。
驚きの理由は、まずそのタイミングであった。
シカゴにあるハイアットホテルズ本社から、ウラジオストックの2物件に関して運営を受託する契約が整った、という発表があったのが2011年9月のことであった。
一般的にホテル運営契約というのは、物件がその姿を現実に現し、完成予定が見えてから調印されることが多いので、その意味であれば、APEC首脳会議の予定される2012年9月の1年前、というタイミングは妥当である。
しかし、その頃、現地を見ていた筆者には、その1年後にホテルがオープンする、とはとても想像ができなかった。要するに、現場にはホテルらしき建築物はなかったのである。