11月23日、永嶋國雄さん(71)に追加のインタビューをした。永嶋さんは、原発事故対策の専門家である。経済産業省の外郭団体「原子力発電技術機構」(現在「原子力安全基盤機構」)でERSS/SPEEDIの開発に中心的な役割を果たした。つまり、福島第一原発事故で使われるはずだった防災システムを隅々まで知り尽くしている。

 政府がERSS/SPEEDI本来の機能を使っていれば、福島第一原発事故であれほど多数の住民が被曝する事態は避けられたのではないか。どうしてそれができなかったのか。誰のミスなのか。それがフクシマの南相馬市や飯舘村といった現場から取材をスタートさせた私の、一貫した問題提起である。

 これまで3回に分けて永嶋さんの話を掲載したところ、非常に大きな反響があった。政府や東京電力の福島第一原発事故対策の失敗はもちろん、その後の事故調査委員会の調査内容も不完全であることを、永嶋さんが詳細に語ったからである。

 一方その間、私は核・原子力技術開発の歴史を取材するため、アメリカを1カ月半取材して回った。アメリカでの取材中も永嶋さんとメールで連絡を取り合った。その証言内容をアメリカ側から裏付けすることができた。前回の取材後にそうした重要な内容が出てきたため、今回のインタビューを追加で重ねることにした。

日本でも飛行機の落下事故を想定して対策を立てていた

──アメリカの核・原子力研究施設を回って分かったのですが、アメリカは国土がだだっ広いので、広大な人の住んでいない空き地がある。そこで「原子炉を暴走させ破壊する実験」まで積み重ねています。アイダホ州のアイダホ国立研究所では「原子炉を暴走させるとどうなるか」と実際に原子炉が爆発する実験までやっていた。地平線まで溶岩の荒地にある、月世界みたいな場所にある実験所でした。研究所の人に「一番近い集落までどれくらいの距離があるのか」と聞いたら「30マイル(約50キロ)」と事もなげに言っていた。なるほど、こういう広い土地の国で原子力発電は生まれたのだな、原子炉が壊れる実験まですれば「事故など起こり得ない」などいう馬鹿げた発想は出てこないのだ、と実感しました。

 そうした場所をあちこち訪ねて、永嶋さんがお作りになった「PBS」(Plant Behavior Data System:原子炉事故の進展を予測するシミュレーションシステム。ERSSの一部に組み込まれている)はアメリカに「コード」(コンピューターの演算プログラム)を発注された、というお話を思い出しました。

 日本政府や班目春樹・原子力安全委員長は「ERSSが壊れて原発からリアルタイムのデータが取れなくなったので、SPEEDIも使えなくなった」という説明をまだ変えません。しかし「原発事故に備えたシステムが原発事故で壊れた」なんて説明は幼稚すぎて信用できませんでした。驚いたことに、国会事故調査委員会の報告も、その説明を鵜呑みにしてPBSの存在すら言及していない。しかし、PBSが実際に原子炉を暴走させる実験データを基に作ったプログラムであれば「シミュレーション」であっても「現実にやった実験の記録」なのですから正確なのだと思い当たったのですが、いかがでしょう。

永嶋 その通りです。アメリカは実寸の3分の1の大きさの格納容器を造って圧力をかけ、どれくらいの圧力になったら破裂するかという実験もやっています。そうした実験は日本ではできません。ですのでアメリカに発注しました。