Summary:日本はエネルギー効率の向上に向けた取り組みにおいて、長い歴史を有している。多数の有効な政策を通じてこの分野における最新テクノロジーの活用を図って来た。しかし、長期的にサステイナブルな消費を確保するには、消費者の行動変化を促す政策が必要となっている。これは、3月の大震災による経験から得た教訓だ。これには、エネルギーの供給と需要に関するより優れた情報提供の実現が鍵となる
 

地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長、東京大学名誉教授
山地憲治

民生部門の省エネは不十分

 1973年の第1次石油危機後、日本は大幅な省エネルギーを達成したが、それは主として産業部門におけるエネルギー効率の改善によるものである。1973年から2009年までに、日本のGDPは約2.3倍に増加する一方で、最終エネルギー消費量は約1.3倍に留まっている。

 部門別に見ると、産業部門のエネルギー消費は約0.85倍とエネルギー利用効率の大幅な改善が行われているが、生活に直結する民生部門(業務・家庭部門)のエネルギー消費は約2.4倍、運輸部門では約1.9倍であり、民生部門での取り組みの遅れが表れている。

 主要国のGDPあたりのエネルギー消費を比較すると、2009年時点において、日本を1として、米国は1.9、EU27カ国は1.7、中国は7.2であり、依然として日本のエネルギー効率の高さが確認できる。

 しかし、GDPあたりのエネルギー消費で表示される日本のエネルギー効率は、1980年代後半からは下げ止まっており、今後更にエネルギー効率を高めるには民生部門の省エネルギーが特に重要である。

民生部門に対する今までの省エネルギー政策と効果

 日本の省エネルギー政策は、規制と支援(税制優遇・補助等)の両面から進められてきた。民生部門における省エネルギー政策は、規制面では、家電等のエネルギー使用機器に対するトップランナー規制、家電の省エネ性能の表示義務付け、住宅・建築物建設時の省エネ基準の届出等によって行われてきた。

 また、支援措置としては、省エネ設備の導入に対する補助金や税制優遇、省エネビル建設に対する特別償却などの税制優遇、住宅リフォーム減税、エコポイント制度、各種省エネ技術開発支援、省エネ意識向上に向けた情報提供や国民運動などが行われてきた。

 民生部門における省エネルギー政策として、日本独自の政策として特に注目すべき成果を挙げてきたのは、トップランナー規制である。トップランナー規制とは、エアコンやテレビ、乗用車など現在商品化されている主要なエネルギー利用機器について、これらの製造業者に対して、一定期間後に、最もエネルギー効率の優れたものの性能以上にすることを求めるものである。

 エネルギーを消費する家庭や業務部門を直接規制するのではなく、これらの部門で使用するエネルギー機器の製造者に対して規制を行う点にユニークさがある。

 トップランナー規制は1998年の改正省エネ法に基づき導入された制度で、2011年現在23機器が対象になっている。