店員はなぜいつまでも接客していたのか
さて、冒頭の家族はどうなったのか。
接客はいつまで経っても終わることがなく、結局、店員は1時間半もの間、説明を続けていた。最後にその家族はカメラとカメラ用ショルダーバッグを購入して、満足げな顔をして帰っていった。
接客をしていた店員、副店長代理の中野裕章さんに聞いてみた。「いつもあんなに時間をかけて接客しているんですか。一体、何をそんなに長々と説明していたんですか」
中野さんの答えは以下のようなものだった。
「接客の時間はお客様によって様々です。先ほどのお客様は、他店のチラシをご覧になっていて、お買いになりたい商品の目星は付いていたんです。でも、一眼レフカメラはまったく使われたことがないというので、一眼レフの基礎から説明していました」
「買いたい商品が決まっているのなら、さっさとそれを売ればいいじゃないですか」
「そうはいきません。納得しないで買っていただくわけにはいきません。納得して買っていただいて、きちんと使いこなして満足していただかないと困ります」
一眼レフカメラの基礎知識だけではなく、家族の中で誰が使うのか、いつ、どんな場面で使うのかなどをヒアリングし、状況に応じた撮影の仕方も説明していたのだという。
1時間半も「ど素人」を相手にし続けるなんて、まったく非効率にもほどがある。
でも、おそらくその家族はリピーターになって、これからもずっとサトーカメラに通い続けることだろう。
■「喧嘩上等のカメラ店が『ど素人』に教わった商売の極意」(サトーカメラ)、「『アホか』と言われたイベントに家族が涙する理由」(菓匠Shimizu)、「20年かけて売上を10倍にした町工場」(ミヤジマ)・・・。
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