以前は、接客は時間を区切ってやれとか言ってたんですよ。でも、そんなのもういい。もう座わらせろと。立ったままでお前の話なんて聞いていられない、おじさん、おばさんを座らせてじっくり話をしろと。
プリントするお客さんに対してもそう。日本のカメラ屋はどこも機械の前にお客さんを立たせて操作させるよね。でも我々の店は、ソファに座ってのんびりやってもらう。そして我々も一緒に座って、一緒に写真を選んであげる。超非効率でもかまわない。それは、お客さんの思い出をきれいに残すため。それが一番大切なことだから。
── 「思い出をきれいに残す」というのはどこから出てきたんですか。
佐藤 最初はそんな言葉はなかったんですよ。自分は実家が写真屋だったから後を継いだだけ。成功して金持ちになりたいって、ただそれしか考えてなかったよね。
店長になった当初はまったくダメな店だったけど、「この商品ならば、品揃えも専門知識も他店に絶対負けない」っていう得意商品をつくって、それに特化して売りまくった。その作戦で、うわーっと成長することができた。
でも、2000年に入ってからデジタルが登場して、カメラ業界が激変するんだよね。それまでは行け行けドンドンでやってきたんだけど、急に先が見えなくなっちゃった。
メーカーは「フィルムはなくならない」って言うんだけど、自分でデジタルを使ってみたら、こんなに便利なものない。だから「フィルムカメラとデジカメは共存していく」っていうメーカーの理論は信じられなかった。それで、迷ったんだよ。業界構造の大変化にどう対応すべきか、どう進むべきか、一体何を売っていけばいいのかって。
我々はなんのためにこの商売をやっているのか
佐藤 困ったなあって思った時に、結局、自分たちはなんのためにこの商売やってんのかなって改めて考えてみた。そもそも、なんでうちの親父はこの会社を始めたのか、なんで自分たちはカメラ屋、写真屋やってんのかなって。
人はなんのためにカメラを買うのかってことだよね。すると、実はカメラを買ってるんじゃないってことが分かってくる。行き着いたのが、たぶん、思い出をきれいに残すためなんだろうなっていうこと。
我々は儲けるために商売をやってるのかもしんないけど、突き詰めてみれば、そういうことのためにやっているんだろうなって。
── そこで、お客さんにとって便利なデジタルカメラに一気にシフトしたわけですね。