前回は、日本のDRAMがなぜ世界シェアNo.1になれたのか、そして、なぜその座から陥落したのかを説明した。

 PC用DRAMを安く大量生産する韓国などにシェアで抜かれた日本半導体産業の言い分は、「経営、戦略、コスト競争力で負けた」「技術では負けていない」という2言に集約された。果たしてその言い分は正しいものだったのだろうか。

 「技術では負けていない」という評価は、ある意味では正しい。なぜならば、高品質DRAMを生産する技術では、確かに韓国や米国に負けていなかったからである。つまり、高品質DRAMにおける過去の成功体験が、日本半導体のトップたちが声高に「技術では負けていない」と主張する背景にある。

 このようなことが、本連載の第1回で紹介したように、少しでも日本半導体の技術にケチをつけると、「湯之上の言うことは全て間違っている」というような罵倒が飛んでくる原因となったのである。

 しかし、この成功体験は、日本半導体を窮地に追い込むことになる。それは、1990年以降、高い要素技術力も、高品質DRAMを生産する技術も、需要の大半を占めるようになったPC用DRAMの競争力とはなり得なくなったからである。

 むしろ、低コストが重要なPC用DRAMにとっては、過剰技術と過剰品質はマイナスの作用を及ぼす。つまり、90年以降、日本半導体は技術の的を外し続けているのである。ここに、日本半導体の第1の過ちがある。

 第2の過ちは、もう1つの言い分「経営、戦略、コスト競争力で負けた」という見解の中にある。

 日本半導体産業は、「コスト競争力」はもっぱら規模の経済とそれを実現するための投資に起因するものと考えており、技術とは関係がないと認識している。しかし、これまでに説明してきたように、半導体生産に関する技術もコストに大きく影響している。というより、技術=コストなのである。どのような技術を選択したかによってコストは自ずと決まってしまうからである。

 その証拠に、前号に示したように、低コストDRAMを生産するための特徴的な技術が確かに存在する。それは、既存装置を延命する要素技術であり、少ないマスク枚数と工程数で短期間にフローを構築するインテグレーション技術であり、速やかに高歩留まりを実現する製造技術である。

 日本が得意とする極限性能を追求する要素技術や高品質DRAMを生産する技術と違って、このようにコスト低減を目指した技術というのは、地味で泥臭いイメージがある。日本は、このような技術を、「低級な技術」と見なしたのである。しかし、これも1つの重要で高度な技術なのである。