会計基準は目的により変わる

 会計学をかじった人であれば「なにを当たり前のことを」というでしょうが、本来、会計基準は目的によりどういう基準を採用するかが変わってきます。

 これはそんなに難しい話ではなく、例えば「この領収書は費用にはなるけど損金算入はできないな」というような話はよくあることでしょう。これは財務目的の会計基準と税務目的の会計基準の間にギャップがあるということです。

 金融庁はこれをあまりしっかり理解しておらず、少なくとも結果的には保険会計に対して「唯一の会計基準」を求める形になってしまっています。

 たとえば、アメリカの保険会計では、監督当局が保険会社に提出させる財務諸表に適用される会計原則(SAP:Statutory Accounting Principle、監督会計基準)と、保険会社が投資家に対して説明するための財務諸表に適用される、一般に公正妥当と認められた会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles、財務会計基準)は別のものです。

 監督会計では保険会社の健全性が重視されます。なので、負債は多めに、資産は控えめに見積もることで、保険会社が将来にわたって経営を継続していくことのできる十分な純資産を保有しているかどうかを確認するのが監督会計の主目的です。これは別に粉飾しているわけではなく、目的からすれば合理的な運用ということになります。

 一方、財務会計は投資家に会社の状態をなるべく正確に伝えるのが目的です。しかも、投資家は多数の企業の財務情報を見比べて投資対象を決めるわけですから、保険会社だけではなく、ありとあらゆる業態の会社と比較できなければなりません。なので、負債を多めに見積もるというのは不正確な情報を投資家に提供することになるためNGで、なるべく合理的な負債の額を計上しなければなりません。

 蛇足ですが、税務会計では、なるべく多く税金を取りたいので「費用(負債)は少なく、収益(資産)は多く」というのが基本的なスタンスになります。これも、納税者としては思うところはあるでしょうが、税務署の目的とは整合的です。

 多くの国ではこのように目的別に会計基準を分けるか、監督当局が財務会計をベースに追加的な情報を取得して保険会社の健全性を判断する方法をとっています。

 ところが、日本は「監督会計を財務会計として使用する」という世にも奇妙なスタイルを採用しています。これでは投資家に正しい情報を提供することができず、他業態との比較も困難になってしまうのですが、なんとなくこの仕組みが続いてきています。

 以下はちょっと細かい話になりますので読み飛ばしていただいても結構ですが、財務会計の基準を定める「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に別記事業として「保険業」が定められており、これにより「監督会計を財務会計として使用せよ」ということになってしまっています。まさに「木に竹を接ぐ」ような話です。

 なお、別記事業では保険業だけではなく、銀行や証券会社、電気やガスや鉄道事業なども指定されているので、これは保険会社だけの話ではありません。保険会計の最大の特徴として「時に数十年にも及ぶ超長期の負債の評価が難しい」というところがあり、監督会計と財務会計の間のギャップもそこに起因するものが多くなります。

 他の業態の会計基準については詳しくありませんが、監督会計と財務会計の間のギャップは保険会計についてのものが特別に大きくなるのではないかと思います。