「安全な投資」プライベートクレジットに潜む時限爆弾

 プライベートクレジットとは、銀行を通さずに投資ファンドが企業に直接お金を貸す仕組みのこと。この市場は近年急拡大しており、IMF(国際通貨基金)の2024年の報告によれば、世界全体で2.1兆ドル(約315兆円)を超えた。その資金の出し手には、年金基金や保険会社など、一般家庭の貯蓄や保険料を運用する機関投資家が多く含まれている。

 レポートが描くシナリオはこうだ。

 投資ファンド(プライベートエクイティ)はSaaS企業を巨額で買収し、その返済原資として「毎年安定して入るソフト利用料」をあてにしていた。しかし前章で見たようにAIがその「安定収入」を崩壊させると、巨額の債務が焦げ付く。レポートでは顧客対応ソフト大手Zendeskの架空の債務不履行が描かれ、これが業界全体のパニックの引き金となっている。

 ここで衝撃的なのは、「引き出せない安定資金」とされていたものの正体だ。

 大手ファンドのApolloはAtheneという保険会社を傘下に持ち、保険契約者から集めた資金を自社が組成するプライベートクレジットに投資するモデルを築いた。Atheneの総資産は2025年9月時点で4300億ドル(約65兆円)に達しており、同社のIR資料によれば、その資産の約95%以上が投資適格格付けとされている。

 KKRやBlackstoneなど他の大手も同様に保険会社を買収してこのモデルを模倣している。つまり「恒久的な安定資金」の中身は、実は米国の一般家庭の年金保険料や生命保険の積立金というわけである。

 レポートは、さらに複雑なオフショアの再保険子会社を使った仕組みにも触れ、「損失が実際に誰にかかるのか、リアルタイムでは本当にわからない」と警告する。2024年にIMFも「プライベートクレジット市場の急拡大に伴うシステミックリスクの不透明さ」を指摘しており、レポートが描くシナリオは絵空事とは言い切れない。