「便利さで稼ぐビジネス」が丸ごと消える
レポートはSaaS業界が「負のフィードバックループ」に陥るとも予測している。
SaaS(Software as a Service)とは、セールスフォースやSlackのように、企業が月額・年額料金を払ってインターネット経由で利用するクラウド型ソフトウェアのことだ。このSaaS業界がAIの直撃を受けるシナリオを、レポートは詳細に描いている。
エージェント型コーディングツール(AIを活用したプログラミングツール)が急速に進化したことで、企業の情報システム部門のトップが「年間数千万円のソフト契約を更新するより、AIを使って自前で作ったほうが安くないか?」と考え始める。実際にこの動きは2026年の現実世界ですでに始まっており、日本経済新聞は2026年1月、セールスフォースなど米大手SaaS企業4社の時価総額がわずか1カ月で約15兆円消失したと報じている。
レポートが指摘する構造的な問題はさらに深刻だ。SaaS企業の多くは「1人あたり月額○○円」という料金体系を採っている。つまり顧客企業がAIで社員を15%削減すれば、ソフトの利用ライセンスも自動的に15%減る。顧客の効率化が、そのままSaaS企業の売り上げ減少に直結するのだ。
しかもAIに脅かされた企業こそ、最も積極的にAIを導入せざるを得ない。かつてのコダック(デジタルカメラの台頭に抵抗し衰退)やブラックベリー(スマートフォンへの対応が遅れて消滅)とは異なり、今回は「抵抗する余裕すらない」とレポートは分析する。
レポートが描くもうひとつの破壊は、「仲介ビジネス」への打撃だ。人間に代わって自律的に判断・行動するAIプログラム「AIエージェント」が消費者の代理として最安値を自動検索し、不要なサブスクリプションを解約したり、保険を最適なプランに乗り換えたりする世界が描かれる。
レポートが象徴的な例として挙げるのがフードデリバリーのDoorDash(米国版の出前館のようなサービス)だ。
DoorDashのビジネスにおいて、競合他社からの追い上げを防ぐ「堀」となっていたのが、「お腹が空いて面倒だから、ホーム画面にあるいつものアプリで注文する」という人間の習慣に依存していた。しかしAIエージェントには「ホーム画面にあって、いつも惰性で使っているアプリ」に相当する概念がない。20のデリバリーサービスを瞬時に比較して、最安・最速の選択肢を選ぶだけだ。
さらに、エージェント同士の取引が増えると、クレジットカード決済の手数料すら「無駄なコスト」として回避対象になる。レポートのシナリオでは、手数料がほぼゼロのステーブルコイン(米ドルなどに価値を連動させた暗号資産)での決済に取引が流れ、VisaやMastercardの収益モデルが揺らぐ。レポートの言葉を借りれば、「彼らの堀は摩擦(何かをしようとする際にかかる手間)でできていた。そして摩擦はゼロに向かっている」。