最も深刻なホワイトカラーの下方シフト

「技術革新は雇用を壊すが、それより多くの雇用を作る」。新しい破壊的テクノロジーが登場するたびに唱えられる説だが、今回も通用するのだろうか。

 たしかに過去を振り返ると、技術革新が雇用を破壊するたびに、それ以上の新しい仕事が生まれてきた。ATM(現金自動預払機)が登場した後、銀行はむしろ支店を増やし、窓口係の雇用はその後20年間増え続けた。インターネットが旅行代理店を破壊した後には、ネット通販やSNSといった新産業が生まれた。

 今回は違う、とレポートは主張する。過去の新しい仕事は、すべて「人間がそれをやること」を前提としていた。しかしAIは汎用的な知性であり、人間が再配置される先の仕事そのものを代替してしまう。「プログラマーがAI管理者に転職する」ことすら、AIがすでにこなせる世界が来つつあるのだ。

 深刻なのは、ホワイトカラーの「下方シフト」がもたらす連鎖だ。

 レポートは具体的なイメージを提示する。年収約2700万円(18万ドル)のプロダクトマネージャー(商品企画の責任者)が解雇後、配車サービスの運転手になり年収が約680万円(4.5万ドル)に落ちる。この「格下げ転職」が何十万人規模で起きると、サービス業の賃金も巻き添えで下がっていく。

 ここで効いてくるのが、米国経済の構造的な特徴である。所得上位10%の層が個人消費全体の50%以上を担っている。この層の収入が減ると、人数の比率以上に消費への打撃が大きくなる。レポートの試算では、ホワイトカラー雇用がわずか2%減るだけで、裁量的消費(生活必需品以外の支出)が3〜4%落ち込む、という結果になっている。

 住宅ローンの分野にも影響がおよぶ。米国の住宅ローン市場は約13兆ドル(約1900兆円)。ローンは「借り手が現在の収入をおおむね30年間維持する」という前提で組まれている。レポートが描くシナリオでは、2008年のリーマンショックとは根本的に状況が異なる。

 リーマンショック当時、金融機関は返済能力のない人に無理やりお金を貸していたため、ローンは「最初から不良品」だった。しかし今回のシナリオでは、ローンを組んだ時点では優良だった借り手の収入が、AIの進化によって「後から」消えてしまう。信用力を示すスコアが780以上(最高ランクに近い)の借り手が危なくなるという、過去に例のない事態が描かれている。