ド=ゴール主義のバージョンアップ

 一方、パンデミック時に発行された次世代のEU(NGEU)債は総額8000億ユーロの45%部分が「給付」であり、この返済に充当するための独自財源としてEUはプラスチック税などの導入を決めた。つまり、新規歳出に対して新規財源を創造しており、まさに国家的な財政運営に近い。

 当時からドイツは「これは一度限りの例外(one-off)」であると強調しており、メルツ独首相はこの「給付」にまつわるスキームが現状のSAFEに適用されることを警戒しているが、逆にフランスはこれを希望する立場にある。

 防衛分野における共同債(以下EU防衛債)を恒久化させることでEUを1つの政治・経済圏として固めたいというのがマクロン仏大統領の立場であり、資金調達手段というよりも、「統合の触媒」としてEU防衛債を創造すべきという主張は一応の説得力を帯びる。

 ド=ゴール大統領時代のフランスは冷戦下において、米ソ二大国の「衛星国」になることを拒否し、自前の核抑止力と独自の外交路線を追求していた。結果、米国主導の防衛体制から独立するという意思表示を兼ねて1966年、NATOからの脱退を決断するに至った。

 こうしたド=ゴール主義とも呼ばれる思想をフランス一国の次元から「欧州全体の戦略的自律」へと拡大し、提唱しているのがマクロン大統領である。任期まであと1年3カ月を切った今、理想への接近を試みようとしている。

 グリーンランド・モーメント。マクロン大統領が2月に入ってから複数の欧州紙とのインタビューで使用したフレーズである。グリーンランドを巡って生じた米国との混乱について「欧州が改革に踏み切るための警鐘(a wake‑up call)と見なすべき」とマクロン大統領は述べる。

 また、こうした主張の中で「将来の支出を賄うための共同債務の能力、すなわち未来のためのユーロ債を発足させる時が来た。最良のプロジェクトに資金を供給するための大規模な欧州による計画が必要だ」 と共同債の実現に野望を見せている。実際のところ、各国予算の拡張が難しいとすれば、手段はそこにしかない。

 今のところ、こうした主張にドイツは抵抗しており、SAFEの「給付」化(≒財政統合の推進)が叶う目途は立っていない。

 1年前、ドイツはあくまで自国の債務ブレーキ法を解除したことで防衛やインフラについては歳出を認めるようになり、これが金融市場で好感された。しかし、欧州統合に対して貢献しようという姿勢に転じたわけではなく、あくまで「自国のため」である。この点は、債務危機を経たメルケル時代からほとんど進歩が見られない部分でもある。

 トランプ政権による欧州への風当たりが変わらないのであれば、正しいのは恐らくマクロン大統領の主張だろう。欧州全体の防衛力を改善させるにあたって、そのコスト負担が加盟国の応分になることは何ら不思議な理屈ではない。平和な時代では考える必要がなかったというだけの話であり、本来であれば具備されていても良い支出項目である。

 ドイツ・フランスは核共有のような大きなテーマで歩み寄りを見せつつも、進んでいた戦闘機の共同開発では結局決裂に至り、協力分野を指揮統制システムに絞り込むというニュースも昨年11月に報じられたばかりだ 。総論で賛成しても、各論で衝突するのが恒例である。